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河合東皐:至楽翁 かわいとうこう:しらくおう(1758宝暦8年〜1843天保14年6月21日)


《資料紹介》河合東皐の写本詩集
                       中嶋康博

 木村寛齋に続いて、江戸時代後期の大垣藩士、河合東皐(かわいとうこう:1758 宝暦八年〜1843 天保十四年)の漢詩詩稿を紹介する。幕末の大垣藩城代であり、当地の詩壇盟主であった小原鉄心(1817 文化十四年〜1872 明治五年)が、親しく交流した漢詩人のなかでは、一番の年嵩の先輩同僚である。
 資料は木村寛齋の時と同様、オークションサイトの同じ出品者からのものであった。内容は、著者自身によって安永・天明期から文政期までの詩文が四冊にまとめられており、それぞれ『東皐集二』、『東皐集巻三』、『東皐集』、『文政庚寅集』  と名付けられている。

 はじめに戦前の大垣市が刊行した『大垣市史』下巻(第2類第3碑文479-480p)掲載の「河合東皐碑文(至楽翁之墓)」を掲げる。
 墓碑は市史が刊行された昭和五年当時には大垣市内の「遮那院趾」に在ったようだが、現在は歴代藩主が眠る菩提寺円通寺の境内に移され、碑文は摩滅して読み難くなっているものの、子孫により大切に継承されていることが寺院で確認されている。


   

 

 「河合東皐碑文」 至楽翁之墓
君諱政良、字子讓。河合氏。號東皋。稱勘左衛門。其先世居、濃之中鄉。爲名族。至曾祖利重。始仕本藩。父利正。母井道氏。有四男一女。君其季。以兄皆夭嗣。泰嶽公之爲世子也、君以勲舊之子入侍。公猶幼冲每在左右。其所輔導最多。公立恩眷彌隆。後徒君夫人傅。又爲世子傅。頗見信任。文政十二年以老致仕。凡在職四十五年。恭順誠敬如一日。今公就封之初、念其世勳、召見特加禮賜衣物。人以榮之。君精武技。兼嗜文事。善爲詩。少時遊江都。 受業昔陽古屋氏。專治古學。討論不自懈。學者服其精。晚自號至樂翁。寄情山水。寓迹風月。優遊自樂。天保十四年癸卯六月二十一日終。齡八十五。葬於城東遮那院之塋域。生二男一女。長曰利方。星野氏之子、其次夭。女嫁河井政武。並都築氏之子。銘曰
功榮其身。敬以自守。維壽維康。積コ旣久。神之所祉。有慶厥後。
           嗣子 河井利方 建
           晩生 松倉廣美 銘
           江都 平松可[燮] 書

 至楽翁の墓
 君、諱は政良(※もと正良)、字は子讓。河合氏。東皐と號し、勘左衛門と稱す。其の先は世(よよ)、濃の中鄉に居り、名族たり。曾祖利重に至って始めて本藩に仕ふ。父利正。母井道氏。四男一女有り、君は其の季なり。兄、皆な夭(若死)を以て嗣となる。
 泰嶽公(※8代藩主氏庸うじつね)の世子と爲るや、君、勲旧の子たるを以て入って侍す。公なほ幼冲、東皐つねに左右にあり輔導する所もっとも多し。公の立つや(文化三年)恩眷いよいよ隆なり。のち君夫人の傅に徒り、又た世子(※氏正)の傅となり、頗る信任さる。
 文政十二年、老を以て致仕す。凡そ職にあること前後四十五年、恭順誠敬一日の如し。今公の就封のはじめ、その世勲を念ひ、召見して特に礼を加へ、衣物を賜ふ。人以て栄となせり。
 君、武芸に精しく、兼ねて文事を嗜み、善く詩を作る。少時江戸に学び、業を古屋昔陽に受け、専ら古学を治め、討論自ら懈らず、學者その精しきに服す。
 晩に自ら至楽翁と号し、情を山水に寄せ、迹を風月に托し、優遊自ら楽しむ。
 天保十四年癸卯六月二十一日終る。齡八十五。城東遮那院の塋域に葬る。二男一女を生む。長を利方と曰ひ星野氏の子なり。その次は夭し、女は河井政武に嫁す。並びに都築氏の子なり。銘に曰く、
功は其の身に榮え、敬以て自ら守る。維れ壽、維れ康にして、徳を積むこと旣に久し。神の祉(幸)ひとする所、厥の後(子孫)に慶有らん。
           嗣子 河井利方 建
        晩生(後輩) 松倉廣美 銘
           江都 平松可 書

 また小原鉄心が編集を志し、未刊に終わった漢詩アンソロジー『地下十二友詩』※の中では、天保十四年、八十五歳の天寿を全うした河合東皐は「至楽翁」として、次のように紹介されている。
(※リンク「木村寛齋の添削詩稿 未刊に終わった小原鉄心編『地下十二友詩』との関係とともに」)

 河合良
良、字子譲、号東皐、至楽其別号、篤学慎行、深厭軽薄気習、嘗為大嶽公傅、勤々三十年、余之始結交也、
子譲既致仕、齢長於予五十八、然交誼甚密、暇則相訪話情、子譲不嗜飲、常病予大飲無量、屡以為言、
頗有古人之風、天保十四年癸卯六月二十一日歿年八十五。

 河合良
良、字は子譲、号は東皐、至楽は其の別号なり。篤学慎行、深く軽薄の気習を厭ふ。嘗て大嶽公の傅と為りて、勤々三十年。余(小原鉄心)の始めて交を結ぶや、子譲すでに致仕し、齢は予より五十八を長ぜり。然るに交誼は甚だ密にして、暇あらば則ち相ひ訪ひて情を話す。子譲、飲むを嗜まず、常に予の大飲無量なるを病みて、しばしば以て言を為す。頗る古人の風あり。天保十四年癸卯、六月二十一日歿す。年八十五。

 そしてその詩稿について、次のような編集方針で臨んだという。

至楽老人遺稿、等身、然詩特餘事、而不堪巧、但足以見天明寛政年間之風格耳、故不多録。

至楽老人の遺稿、身と等しうす(多くある)。然れども詩は特に餘事にして、而して堪しくは巧まず。但だ以て天明寛政年間の風格を見るに足るのみ、 故に多く録せず。

 すなわち詩作はあくまでも余事として適当に愉しんでいたという総括を鉄心にされたのであるが、詩稿の量は大げさに言えば背丈ほどあったらしい。 なまなか余事であったとは思われ難いのである。
 ただ『地下十二友詩』が計画された幕末にあって、それらは「天明寛政年間の風格」つまりその当時にはすでに時代遅れとなった性霊説(典故・格調を追わず即物性を旨とした抒情)に基づく詩風であったのだろう。遺された作品も、もはや世代を隔った現今の詩人に添削を委ねる筋合いのものではないのだ、そのような「判断」によって詩稿後半から三篇のみが選ばれ、また先輩への「配慮」によって巻頭に載せられることになっていたようだ。

 紹介文にあるように、五十八もの年齢の開きがあり、出会った当時すでに隠居の身であったという下戸の翁から、若き日の鉄心がたびたび酒量につき窘められていたと書いているところが可笑しい。忘年の契りというのだろう。「昔は沢山詩を書いたもんだよ」と二十代にまでさかのぼる青春の詩稿を示され、托された詩稿のうち、今回発見された四冊がその何割に当るのかは分からない。また『地下十二友詩』に選ばれたわずか三篇の詩篇にしても詩稿とは異同がある。推敲されたのかもしれないが、掲載に際して勝手に添削が施された可能性も否定しない。

 河合東皐については『美濃大垣十万石太平記(上)』(1985清水春一・山田美春編著 253-256p)において、祖先および子孫について、 殆ど唯一の文献として解説がされており、茲に引いておきたい。これを読むと小原鉄心が『地下十二友詩』に多く載せぬとした東皐の遺稿から、ことさら長い「段木詞」を選んで巻頭に掲げた理由、東皐が根尾山の段木方(藩内の薪木を根尾川山系から徴収し差配する仕事)だった父の仕事を、子供の頃から身近に見て育ったことが判る。


 河合勘左衛門正良

 本姓は、藤原氏。家紋は、抱き柏。もと、三つ柏(いつの頃か先祖某氏が伊勢の大神宮に参拝し、宮川に浮ぶ三つの柏葉を見て三つ柏の紋を当家の定紋とした。また、目出たい吉祥の三つ柏葉に、河にて合ったから河合を名乗ったという)を使用した。
 その祖、四郎兵衛利成は、権頭助宗二十余世の孫という。美濃国主土岐氏に仕え、中郷村に居住した。
 二代、與兵衛利有も中郷村に住み、元和九年に没す。三代の佐右衛門利法。四代、甚左衛門利盛に至り、五代目の勘左衛門利重がはじめて当藩に仕える。
 利重は、三代(氏西)、四代(氏定)に仕え、扶持米三十二俵二人扶持が支給され、享保十三年八十二才で没した。
 六代の彦太夫利国は、当国石津郡三十丁村水谷五郎右衛門の嫡男。養父利重より早く没したため家督は継がなかった。
 七代の勘左衛門利正は、享保六年生まれ、幼くして、祖父利重の家督を継ぎ、木村園右衛門豊忠宅に寄寓。五代(氏長)、六代(氏英)に仕え、元文四年、二十五俵二人扶持が支給された。代官兼根尾山段木方、詰目付兼段木方留所奉行・別勘定奉行等を勤め、七代氏教の安永二年、新知五十石の知行取りになった。ついで、固奉行兼舫奉行・普請奉行・中奥番所・納戸役を勤め天明七年二十石が加増。寛政四年江戸詰となり、同五年氏教から下知書
「金八郎(氏庸)幼年ヨリ出精相勤一段之事候、及老年ニ至候間用向取扱差許之勤方之儀是迠之通ニテ金八郎行状第一ニ心ヲ附相勤比段可申渡也」
と時服一襲が与えられ年来の勤労を賞された。ついで、氏庸(部屋住)の側役を一命ぜられ同八年、三十石が加増され都合百石になった。同年、隠居し江戸の永久邸(永久橋中屋敷)で没した。享年七十七才。蓮光寺に葬り、法号は、観了院忠誉泰山信士といった。妻は、井道隆雄の娘。
 八代目が勘左衛門正良である。はじめ、佐右衛門。
 号は、東皐。宝暦九年の生まれ、天明二年江戸に遊学、翌三年に帰垣した。同五年、 氏教に召出され二十俵二人扶持。寛政四年、父利正と江戸に移り、詰目付と金杉下屋敷の留守を勤め、氏庸の剣槍稽古と素読を講じ、のち上屋敷に移り氏庸に近仕した。兄がみな没したため、寛政九年、七十石で当家を相続し、氏庸の納戸役を勤めた。享和二年側役。文化八年、三十石が加えられ百石。 同十一年、氏正付から同十三年再び側役を勤め、文政四年、持筒頭に転じ役料三十俵が支給される。同八年、氏庸の三男・義三郎(のち・戸田寛之進庸達)。同四男・仁四郎(のち。堀田豊前守正義)。同五男・彦五郎(のち・北條相模守氏久)に素読を講じ、同九年三十石が加増され都合百三十石になった。
 正良は、詩を作り、文武両道をきわめ、小原二兵衛忠寛(鉄心)とも交友が深かったという。同十二年、七十一才で致仕、至楽翁と号した。天保十四年、八十五才のとき没す。城東進遮那院に葬り、法号は忠潤院温誉至楽信士といった。妻は都筑平太夫の娘。弘化四年、七十四オで没す。円通寺の墓は、「慧秀院柔誉貞温信女・河合至楽翁妻都筑平太夫娘七十四才逝・弘化四年四月十五日・河合利方建」とある。
 九代目、勘左衛門利方は、はじめ茂平といった。正良の嫡男である。氏庸に仕え、納戸役を勤め、文政十二年に家督を継いで百三十石。のち、氏正に仕え二十石が加増されて寺社・町奉行になり城内小橋ロ門内の北側に住んだ。嘉永二年に没す。年、五十八才。法号は、摂取院光誉照山信士。妻は、安田氏の娘、慶応四年に没した。法号は、随照院摂誉光順信女。ともに西外側町の円通寺に墓がある。夫妻の墓誌銘は、菱田重明(毅齋)の撰文。墓は、 養子勘左衛門利寛が建立したものである。
 十代・勘左衛門利寛は、東長町山本多右衛門治義の三男(佐竹五郎義著の弟)。百三十石を相続し、氏正・氏彬・氏共に歴仕、諸手旗奉行を勤め、明治二年、三十九才で没す。
 十一代の鋭司利能は、はじめ亀之助といった。実は、石原次太右衛門頼当の二男。妻は、喜多村鎮人の娘。最後の藩主氏共に仕え、のち雄(たけし)と改める。

 河合東皐は、小原鉄心やその先輩江馬細香が活躍した頃よりさらに前時代の詩人である。念のため詩稿に出てくる「東陽先生(守屋東陽)」の『東陽集』をあたってみた。詩題には師事した晩年の服部南郭を始め、岡田新川、江馬蘭斎ほか地元詩人の名が挙がっていたが、残念ながら河合東皐の名を見 つけることはできなかった。

 ただし特筆すべきは守屋東陽が『美陽選』なる近親詩人のアンソロジーを計画しており、その序文を書いていたことである。東皐の東陽追悼詩において完成しなかったことが触れられているものの、或いはそうした存在は知られており『美濃風雅』に大垣の武士達の収録が見送られた理由の一端としてあったかもしれないことを付記しておく。

 ともあれ当時の漢詩人の全生涯にわたる作品が、二百年の時を経て奇蹟的に紹介される事になったのは、さきの木村寛齋の時と同様、郷土詩史にとって特筆すべき発見かと思う。

 木村寛齋の項でも記したが、大垣藩の武士詩人たちは、文政四年に刊行された美濃地方の一大アンソロジー『三野風雅』の中に採られることが少なかった。貴重な当時の人間関係が映されているというだけでなく、漢詩文が有する「風格」を、品隲することが困難になった現代人の目からすれば、幕末期の尊王攘夷思想が未だ突出することのなかった、インサイダー文学者の自適生活活写されている当時の作品にこそ、江戸後期に大衆化を果たした漢詩文化の実情が、他者の添削を経ることが無いことも相俟って却ってよく窺われるのではないか、とも思われるのである。


 新出資料のうち、『地下十二友詩』に選ばれた最終的な詩篇を【A】に、続いて自筆詩稿を【B】以降に掲げる。鑑賞や選詩判断についての考察は他日にゆだねたい。


【A】未刊本『地下十二友詩』より河合東皐の詩篇 3篇
  PDF(13.2mb)

僊其骨儒其心。奉
君忠執事勤。香一炷
竹三竿。存至楽古之
人。 至楽老人賛
   尚庵岩瀬題(岩瀬尚庵)

僊は其の骨、儒は其の心。
君を奉じて忠、執事勤む。
香一炷、竹三竿。
至楽、古への人、存す。

◎01.段木詞。并序
 段木謂薪木也。我封疆西北堺于江越。山深谷邃。居民以伐木充租税。毎歳所伐出。不下五六千間。(段木長三尺、積之高五尺、廣六尺、方言謂之一 間)。盡従谿流。運漕而達大垣。於是自士大夫。以至輿臺卒隷。頒賜各有差。餘波及農商焉。其澤不尠。事詳於詩中云。

西北攅峯繞封域。参天林木欝蕃殖。大者十圍小者拱。陰々交柯日光匿。
居民生計持斧斨。雲嵐深處遠裹粮。採樵従米代租税。維伐維断三尺強。
邦人呼之稱段木。負擔陟降幾陵谷。山深家遠露宿還。溪頭累々積如屋。
冬初山村迎有司。巡検依舊不愆規。杙柵鎮石壅支泒。浚鑿耶相逐下。
一川駿奔疾於矢。段木漂蕩流不止。鼈耶鼇耶相逐下。滾々漂々十數里。
流来六里(村名)官舎前。校檢聚積於此全。舟舩日夜積又載。従流自是下篁川。
君不見 垣城内外家幾萬。終年薪木充一旦。
 禧曰、段木入詩、是為蒿矢。而段木名、世不多知也。采風者可以収而資經濟焉。

 段木の詞。并びに序。
段木(ツダ)は薪木を謂ふ也。我が封疆の西北は江越(近江・越前)を堺とす。山深く谷邃し。居民、伐木を以て租税に充つ。毎歳伐り出す所は。五六 千間を下らず。(段木の長さ三尺、之を積みて高さ五尺、廣さ六尺、方言に之を“一間”と謂ふべし)。盡く谿流に従ひ、運漕して大垣に達す。是に於 いて士大夫より、以て輿臺卒隷(召使)に至るまで頒ち賜はるるも各々差有り。餘波は農商に及び、其の澤(たく)尠からず。事は詩中に詳らかに云 ふ。

西北に峯は攅(あつ)まりて封域(領地)を繞る。
参天(聳ゆる)たる林木、欝として蕃殖す。
大なる者は十圍、小なる者は拱(こまね)く(程の太さ)。
陰々、柯(えだ)を交へて日光匿(かく)る。
居民の生計、斧斨を持し、
雲嵐、深き處、遠く粮(かて:弁当)を裹(つつ)む。
採樵して米に従って租税に代ふ。
維れ伐り維れ断じて、三尺強(※約1メートル)。
邦人、之を呼びて段木と稱す。
負擔して陟り降りすること幾陵谷。
山深く、家遠く、露宿して還(かへ)る。
溪頭に累々と積むこと屋の如し。
冬の初め、山村、有司を迎へ、
巡檢、舊に依って規を愆(あやま)らず、
杙柵、鎮石もて、支泒(支流)を壅(ふさ)ぐ。
激流を浚鑿して、岸涯を溢れさす。
一川、駿奔するは、矢よりも疾く、
段木、漂蕩して流れ止まず。
[鼈]か鼇か(亀たち)、相ひ逐ふ下、
滾々漂々として十數里。
流れ来るは六里(村名:揖斐郡大野町)の官舎前。
校檢、聚め積み、此に於いて全うす。
舟舩、日夜、積み又た載せ、
流れに従って是より篁川(※城下をめぐる川の旧名か)を下る。
君見ずや、垣城の内外に家幾萬あるを。
終年の薪木、一旦(一朝)に充つ。
 禧(菱田海鴎)曰く、段木の詩(題)に入るは、是れを蒿矢と為す。而して段木なる名も、世に多くは知られざる也。采風の者(風俗採集学者)、以 て収めて經濟に資すべし。

◎02.厳齋大夫観楓宴次主人韵
樹々深紅又殘黄
勝於花處下吟牀
多年製錦鄭卿手
裁入詩篇句亦香

 厳齋大夫(戸田睡翁)の観楓の宴。主人の韵に次す。
樹々、深紅また殘黄。
花より勝(景勝)の處、吟牀を下す。
多年、錦を製す、鄭卿(名政治家)の手、
裁して詩篇を入るれば、句また香ばしからん。


◎03.同寛齋大夫訪菱毅齋
退食従容向野村
行攀五柳弄春暄
但為王弘無載酒
先生容易不開門

 寛齋大夫と同に菱毅齋(菱田毅齋)を訪ふ。
退食(退勤)、従容として野村に向ひ、

行(ゆくゆ)く五柳を攀(引)いて、春暄を弄す。
但だ王弘と為るも、酒を載せるなくんば、
先生(五柳先生:陶淵明)、容易に門を開けざらん。

至楽老人遺稿、等身然詩特餘事而不堪巧、但足以見天明寛政年間之風格耳、故不多録。

至楽老人の遺稿、身と等しうす(多くある)。然れども詩は特に餘事にして、而して堪しくは巧まず。但だ以て天明寛政年間の風格を見るに足るのみ、 故に多く録せず。

【B】自筆詩稿【東皐集二:東皐謾詠】  PDF(19mb)

東皐集安永十年辛丑春 (※1781年 河合東皐23歳)

               河正良子譲稿

 夢遊富嶽二首
削出芙蓉秀海方
居然千載壓扶桑
萬尋唯訝天台路
一夜安知華胥郷
近把斗杓餐玉雪
疑陪帝座酌瓊漿
夢遊非管高唐思
神女重無翻羽裳

一夜名山飛夢魂
飄々未識至天門
堪捫斗舌攀仙路
應借羽毛叩帝閽
暘谷浴来晞髪日
絶巓高捧洗顔盆
壮遊渾憶仍神助
軽挙何須勝具論

 夢に富嶽に遊ぶ。二首。
芙蓉を削り出し、海方に秀で、
居然として千載、扶桑を壓す。
萬尋、唯だ訝る、天台への路かと、
一夜、安んぞ知らん、華胥の郷を。
近く斗杓を把りて玉雪を餐とすれば、
疑す、帝座に陪して瓊漿を酌むかと。
夢遊するも高唐(※高唐賦:巫山女の故事)の思ひに管するには非ず、
神女は重ねて羽裳を翻すこと無からん。

一夜、名山に夢魂を飛ばす。
飄々、未だ識らず。天門に至るを。
斗舌を捫る(※もの言へぬ)に堪へたり、仙路を攀ぢるに。
應に羽毛を借りて帝閽(門番)を叩くべし。
暘谷(※日出づる所)、浴し来る、髪を晞(さら)す日、
絶巓、高く捧ぐ、洗顔の盆。
壮遊、渾て神助に仍ると憶ふ。
軽挙、何ぞ須ひん、勝具(済勝の具:健脚)を論ふを。
 ※年少疎狂,擬晞髪扶桑,濯纓暘谷。劉炳「壺中天慢 感懷」

 春初集東陽館館前有羅浮径繊月林老圃冬青阜之勝
高館宴遊緑水湄
園中韶景勧杯時
翠標無恙経冬阜
清艶看揺冒雪枝
潜跡真人鄭圃老
拂眉佚女瑶臺移
更憐此地東陽暖
青艸旋芳入妙詞

 春初、東陽(守屋東陽)の館に集ふ。館前に羅浮の径、繊月林、老圃、冬青の阜 (そよごのおか)の勝(景勝地)有り。
高館の宴遊、緑水の湄(ほとり)、
園中の韶景、杯を勧む時。
翠の標(梢)、恙なく冬を経る阜、
清艶、看れば揺るる、雪を冒(かむ)る枝。
潜跡の真人(仙人)は、鄭圃の老(列子:沖虚真人)にして、
眉を拂ふ(描く)佚女(美女)は、瑶臺(仙境)に移る。※
更に憐む、此の地の東陽の暖かきを、
青艸、芳を旋(めぐら)して、妙詞に入れり。
 ※ 瑶臺の偃蹇たるを望み有娀の佚女を見る『離騒』

 春寒尋花分韻
餘雪何邊當問春
信笻忘意下江津
津頭僅有梅花在
旋泄幽芳一朶新

 春寒、花を尋ぬ。分韻。
餘雪、何れの邊か、當に春を問ふべき。
笻(つゑ)に信(まか)せて意を忘れ、江津を下る。
津の頭(ほとり)、僅かに梅花の在る有り、
旋(めぐ)り泄(もれ)る幽芳、一朶新し。


 人日艸堂集分韻
東皐旋為隔塵囂
諸彦相携下野橋
唯憶朱門勝花好
誰圖白屋彩毫飄
雨過七葉蓂初發
春淺餘寒雪未消
喜用濁醪難勧醉
却能談笑不蕭條

 人日(一月七日)の艸堂の集。分韻。
東皐、旋れば塵囂を隔つと為す。
諸彦、相ひ携へて野橋を下る。
唯だ憶ふ、朱門に花を勝することの好(よ)きを。
誰か圖らん、白屋(貧家)に彩毫(画筆)の飄へるを。
雨過ぎて、七葉の蓂(瑞草)初めて發するも、
春淺き餘寒、雪は未だ消えず。
喜んで濁醪を用ゐるも醉ひ勧め難く、
却って能く談笑して、蕭條ならず。


 隔簾美人圖分韻
青娥皎歯欝金堂
窈窕水晶簾内粧
未效隔墻引騒客
還憐對絹脳詩腸
霞濃難認遥山黛
雲淡猶籠春月光
多似漢宮焚香夕
芳魂恍惚泣君玉

 簾を隔つ美人の圖。分韻。
青娥(眉)、皎歯、欝金の堂、
窈窕たり、水晶簾内の粧ひ。
未だ效あらず、墻を隔てて騒客(詩人)を引くには、
還た憐む、絹(画絹)に對して詩腸を[悩]ますを。
霞、濃くして認め難き遥山の黛、
雲、淡くして猶ほ籠める春月の光。
多く似る、漢宮に香を焚く夕、
芳魂、恍惚として君玉(寵妃)を泣かしむるに。


 春宵新月分韻
春宵迎旧此相依
共拝簾前新月微
吾輩彩毫願如此
従君夜々益光輝

 春宵新月。分韻。
春宵、旧(旧臣)を迎へて、此れ相ひ依る。
共に簾前(藩主)に拝せば、新月微かなり。
吾輩の彩毫、此の如きを願ふ。
君(※月・藩主)に従りて夜々、光輝を益さんことを。


 春江花月夜
春江花月夜何鮮
江碧花紅皓月前
皓月紅花渾所賞
春江清夜共相連
花顔還訝江M女
春晩堪欺月裡仙
為唱春江花月曲
不知花月散江天

 春江花月の夜。
春江の花月、夜、何ぞ鮮(あざや)かなる。
江碧く花紅し、皓月の前。
皓月と紅花と、渾(まじ)りて賞する所、
春江の清夜、共に相ひ連ねん。
花顔、還た訝る、江Mの女(※妓女)、
春晩、欺くに堪へたり、月裡の仙に。
為に唱す、春江花月の曲、
知らず、花月の江天に散れるを。


 又
春江清夜百花明
水靣况逢月色晴 水面
[杏]渺唯疑銀漢上
天孫遥下錦機迎

 又。
春江清夜、百花、明るし、
水面、况んや月色の晴に逢はんとは。
[杳]渺たり、唯だ疑ふ、銀漢(天の川)の上(ほとり)、
天孫(※織女)、遥かに錦機を下して迎ふるを。


 春雨帰鳫分韻
向北帰[鳫]鎖暗雲
涳濛望裡總難分
幽人非管離群怨
和雨哀音思自紛

 春雨に鳫帰る。分韻。
北に向ふ帰[雁]、暗雲に鎖され、
涳濛(細雨)の望裡、總て分ち難し。
幽人(隠者)は離群の怨みに管するに非ず、
雨に和して哀音の自ら紛れんことを思へり。


 次韻林生春夜宴作
詩家一夜興無窮
杯酒勧来談笑中
不厭春寒尚餘雪
如花彩筆促和風

 林生の「春夜の宴」の作に次韻す。
詩家の一夜、興の窮まる無く、
杯酒、勧め来る、談笑の中。
春寒、尚ほ雪の餘れるを厭はず、
花の如き彩筆、和風に促さる。


 春初過莽莟亭探韻
春光何地早
莽蒼故人居
處々梅旋綻
山々雪自餘
窓閑馴野鳥
泉淺躍游魚
况為君賖酒
夕陽猶晏如

 春初、莽莟亭を過りて韻を探す。
春光、何れの地ぞ早き、
莽蒼(繁茂)せる、故人の居。
處々、梅は綻び旋らせ、
山々の雪、自ら餘せり。
窓は閑にして、野鳥馴れ、
泉は淺くして、游魚躍れり。
况んや君が為に酒を賖(買)ふをや。
夕陽、猶ほ晏如たるがごとし。


 羅浮径 (東陽館五勝之内)
幽逕數梅花満枝
羅浮春色正闌時
瓊瑛夜贈佳人夢
氷雪朝凝處子肌
綽約淡粧迎白日
霏微香蕋引黄鸝
更憐襲袂軽風乱
應媚仙郎麗藻詞

 羅浮の径 (「東陽館」五勝の内)※羅浮山:梅の名所
幽逕の數梅、花、枝に満つ。
羅浮の春色、正に闌(たけなは)の時。
瓊瑛(※水滸伝中の美女)、夜に贈る、佳人の夢を。
氷雪、朝(あした)に凝ふ、處子(をとめ)の肌かと。
綽約(たほやか)たる淡粧、白日を迎へ、
霏微たる(※細かく落ちる)香蕋、黄鸝(鶯)を引く。
更に憐む襲袂の、軽風に乱るを、
應に仙郎(風雅の士)の麗藻なる詞に媚びるべし。


 頃者撃劔駆馬子弟多学読書而唔吚満閭[巻]偶爾賦示太田生
家々絃誦自紛々
總識太平今日勲
請見揚々班趙侶
却能投戟楽斯文

 頃者(このごろ)劔を撃ち馬を駆る子弟も、多く読書を学ぶ。而して唔吚(訓読の声)閭[巷]に満つ。偶爾、賦して太田生(※不詳)に示す。
家々の絃誦(※研鑽)、自ら紛々、
總じて識る、太平今日の勲(いさおし)を。
請ふ見よ、揚々たる班・趙(※不詳)の侶(ともがら)
却って能く戟を投じて、斯文を楽しむを。


 [岡]野生一百歳歌
翁藩櫻樹門之吏也此茲百歳形神益壮坐臥進退不曽頼几杖眼耳歯牙亦未一覚悪云生奉吏職之外但能嗜酒具他逸楽未聞之有也荘生所謂無累者豈是耶穪為丈四郎
岡野翁蒼顔不變松柏身
欝々悠々知幾春
今年相逢一百歳
百歳共喜有此人
試問君嘗何所為
依然紅顔長如斯
非若金丹探南山
或是玉桃従瑶池
仙耶非耶将大椿
悠悠日月一何奇
翁也笑道那得有
身是平々一野叟
起臥于徐醉復眠
朝向公門暮蓬[牖]
豈知大椿與神仙
唯知眼前一杯酒
對之日々無餘願
陶然醉時笑開口
此身是非[一不・何知]辨
此[中]壽夭君自取
善哉此翁為此言
世間贅物渾無煩
初知天真自相得
養性之機於此存
笑他絶穀也練石
五石練成向誰論
君不見
漢家天子學神術
殊将冕旒拝泰一
千萬方士宛盈庭
喋々空言渾無實
又不見
秦闕祖龍旋八埏
八埏遍求大薬 年千里驅石蒼海外
一朝茫々扶桑天
安期東去復不還
萬金徒費徐福舩
何似今日岡野翁
事事不拘達者風
彼我無隔洸洋處
未求道氣氣暗同
嘆息遠捜不止者
不知具道有此中
放歌春暖林類裘
大隠益閑監門遊
富貴栄辱君[休]問
舜跖千載共一丘
丘林花開流水前
任去任来春夏秋
三萬六千已如此
従是優游還何求
深欽世間誠如君
年々歳々復何憂

 岡野生(※不詳)の一百歳の歌。
翁は藩の櫻樹門の吏なり。此茲、百歳にして形神ますます壮なり。坐臥進退、曽て几杖を頼らず、眼耳歯牙また未だ一も悪しきを覚えずと云ふ。生、吏職を奉ずるの外、但だ能く酒具を嗜み、他の逸楽は未だこれ有るを聞かざる也。荘生(荘子)の所謂「無累の者」にして、豈に是れ、丈四郎(※不詳) の為に稱へんや(※不詳)。
岡野翁、蒼顔不変、松柏(節度)の身。
欝々悠々、幾春を知れる。
今年、相ひ逢ふ一百歳、
百歳、共に喜ぶは此の人に有り。
試みに問ふ、「君、嘗て何の所為にて
依然として紅顔、斯くの如く長へならんか。
若し金丹(不老薬)を南山に探すに非ざれば、
或は是れ玉桃(長寿仙果)の瑶池(仙界)に従(よ)るものか。
仙か、仙に非ざるか。将に大椿(長寿)ならんとす。
悠悠たる日月、一に何ぞ奇なる」と。
翁また笑ひて道ふ、「那(なん)ぞ有るを得ん。
身は是れ、平々たる一野叟なり。
起臥は于徐(緩慢)、醉ひ、復た眠り、
朝は公門に、暮は蓬[牖](茅屋)に向ふ。
豈に大椿と神仙とを知らんや。
唯だ知るは、眼前の一杯の酒、
之に對すれば日々、餘願無し」と。
陶然として醉ひ、時に笑って口を開けば、
「此の身の是非は、一たび辨ぜず(何ぞ辨ずるを知らん)。
此[中]の壽・夭は、君自ら取れ」と。
善き哉、此の翁にして此の言を為す。
世間の贅物、渾(まざ)りても煩はさること無くして、
初めて「天真自ら相ひ得たる」を知る。
性を養ふ機は、此に於いて存し、
笑ふ。他の穀を絶ち(※神仙養生法)また石を練る(※製薬)を。
五石(不老長寿薬の原料)練り成して、誰に向ひて論ぜん。
君、見ずや、漢家の天子、神術を學べるを。
殊(ことさら)に冕旒(王冠)を将(も)って、泰一(宇宙の最高神)を拝し、
千萬の方士は、宛ら庭に盈ちるも、
喋々たる空言、渾て實るなし。
又た見ずや、秦闕の祖龍(始皇帝)、八埏(八方の果て)を旋らさすを。
八埏、遍く求む、大薬の年(よはひ)。
千里、石を驅る(※架橋の故事)、蒼海の外。
一朝、茫々たる扶桑の天、安(いずくん)ぞ期せん、東に去りて復た還らざるを。
萬金、徒らに費す、徐福の舩。
何ぞ似んや、今日の岡野翁の事々拘らぬ達者の風に。
彼我の隔てなく洸洋たる處、未だ道氣を求めずも、氣は暗に同ぜり。
嘆息して遠く捜して止まざる者、知らず、其の道の此の中に有るを。
春暖を放歌す、林類の裘(※衛国の百歳翁の裘)。
大隠(隠者)は益(ますま)す閑にして、監門(藩邸門番)に遊ぶ。
富貴栄辱、君問ふを[休]めよ。
舜も跖も(※王様も盗賊も)千載、共に一丘(墓)。
丘林、花開く流水の前、
去るに任かせ、来るに任かす春、夏、秋。
三萬六千(36,000日:百年)已に此の如し。
是の優游に従ひて、還た何をか求めん。
世間を深く欽(つつし)むこと、誠に君が如きは、
年々歳々、復た何をか憂へん。


 春日、同訪小出子信[它]分韻
風流舊鶡冠
狼藉玉杯盤
傲寄南窓暖
春憐五柳闌
吟哦謾自適
爾汝互相寛
要識陶家趣
須来栗里看

 春日、同(とも)に小出子信(※不詳)[宅]に訪ふ。分韻。
風流なり、舊(昔の)鶡冠。(かつかん:中国の隠者)
狼藉たり、玉杯の盤。
南窓の暖きに傲寄(寄傲:ほしいままに)して、
春に憐む、五柳※の闌(たけなは)を。(※陶淵明の庭)
吟哦、謾りに自適し、
爾汝(じじょ:遠慮なく)、互ひに相ひ寛うす。
陶家の趣きを識るを要すれば、
須らく栗里※に来て看るべし。 (※白居易が陶淵明を慕った場所)


 同前賦得花雲樵路香分花字
春風麗日一蹊斜
洞口何邊不百花
乗興行迷白雲外
芳香深處有仙家

 前に同じく。「花雲樵路香」の「花」字を分つを賦し得たり。
春風麗日、一蹊、斜めなり。
洞口、何れの邊か百花ならざらん。(※洞=谷)
興に乗じて白雲の外を行き迷へば、
芳香深き處、仙家有り。


 雨中閨情分韻
艸芳雨裡緑如敷
花落閨中紅自孤
雙燕唯無關此怨
啣泥随意似相呼

 雨中の閨情。分韻。
艸芳雨裡、緑、敷く如し。
花落つる閨中、紅、自ら孤たり。
双燕、唯だ此の怨みに關するなく、
泥を啣んで随意、相ひ呼ぶ似(ごと)し。


 祭智洲上人文
維安永十年春二月丙寅
河正良之拝故智洲上人之墓
嗚呼哀哉 上人以客歳二月壬申逝矣
爾来一期 忽如隙駒
茲追感曩年 怳若在 初没哀慕之情 何能已
已謹設薄[奠] 用伸祭敬
嗚呼哀哉 悠々天地 遠敷聖澤
赫此言行 云叙縄削 千載昭々 載籍極博
維此上人 無不[渉]略 日夜孜孜 執志不薄
匪病無廢 匪籍無楽
五典三墳 九丘八索 研究維精 索隠孔炤
况彼空門 淵原莫々
方之舟之 沿伊遡洛 爰極玄津 蔵舟於壑 望之如虚
于槖于嚢 百爾唯欽 于何不臧 
獨悲上人 於区々郷 璞玉之質 生僻楚罔 琢磨竊加
未及揚光 一朝奄忽 寶光倶亡
嗚呼哀哉 厥命靡常
雖人能服師之温良 黙々淵識 誰見其量
嗚呼嗚呼 今而何之追念乎
昔良也 所為以狂且愚
復未弃遺教従所問経傳史詩 
明指之衷 諄々忘疲 辞無浮華 言有攸宜
秩々徳音 復敢不儀 而今逝矣
吾何之随 夣夣蒼天 涕涙垂々
鐘情薀結中 心如醉
維此蕪辞 何能盡意
尚神之明察 誠愚志彷彿其来亨

 智洲上人を祭る文。
維れ安永十年、春二月丙寅(2月23日)、
河正良(河井正良:東皐)、故智洲上人の墓に之(ゆ)き拝す。
(※釈智洲:字は牢船、箕山と号す。大垣縁覺寺住職『大垣市史』中巻240p)
嗚呼、哀しい哉。上人、客歳二月壬申(2月23日)を以て逝く。
爾来一期(一生)、忽如たる隙駒(短さ)。茲に曩年を追感すれば、怳(恍)として在るが若し。
初めて哀慕の情に没す。何ぞ能く已(や)まん。
已(すで)にして謹みて薄奠を設へ祭敬を伸(申)ぶる用とす。
嗚呼、哀しい哉。悠々たる天地は遠く聖澤を敷く。
赫(※鼇頭:覺)たる此の言行、云(ここ)に縄削(削り直す)して叙さん。
千載昭々として、載籍(書籍)は極めて博くも、
維れ此の上人、[抄]略(取り込む)せざることなく、
日夜、孜孜として志を執ること薄からず。
病ひに匪(あら)ざれば廢すること無く、籍(書籍)匪ざれば楽しむこと無く、
五典・三墳・九丘・八索(中国古典)、
研究は、維れ精しく、索隠(探し求める)すること孔炤(明晰)たり。
况んや彼の空門(仏教)の淵原の莫々たるをや。
之(これ)に筏し、之に舟し(※方之舟之『詩経』)
伊に沿ひて洛を遡り(※伊洛之学:儒学)、
爰(ここ)に玄津(仏教)を極めるも、舟を壑に蔵(かく)し、之を望めど虚の如し。
ふくろへ袋へ(※于槖于嚢『詩経』)、百爾(すべて)唯だ欽(つつ)しめば、何ぞ臧(かく)れざる。
獨り上人を、区々たる郷に於いて悲しむ。
璞玉(あらたま)の質は生僻(まれ)にして、罔を楚(むちう)つ。
琢磨、竊(ひそ)かに加ふるも、未だ光を揚げるに及ばず、一朝、奄忽(突然)にして寶光、倶に亡べり。
嗚呼哀しい哉。厥(そ)れ命は常なるは靡(な)し。
人は能く師の温良に服すると雖も、黙々たる淵識、誰か其の量を見ん。
嗚呼、嗚呼、今にして何の追念か。
昔、良(東皐)也、狂且つ愚を以て為す所、復た未だ遺教を弃てず。
経傳史詩を問ふ所に従って、之の衷を明指され、諄々、疲れるを忘る。
辞に浮華なく、言に宜しき攸(ところ)有るも、秩々たる徳音(※『詩経』)、復た敢へて儀(手本)あらず。
而して今逝けるか。吾れ何ぞ之れ、夢々たる蒼天に随はん。
涕涙は垂々として、情を薀結(鬱結)に鐘め、中(衷)心、醉ふ如く、維(こ)れ此の蕪辞、何ぞ能く意を盡さん。
尚ほ神の明察、誠に愚志を彷彿させ、其れ来亨(らいきょう:たてまつる)せん。


 送人奉使入賀 登極
行慶使臣奉命辰
萬方同向受禪春
本支百世従周典
朝野一時仰代仁
上苑花添瑞雲晃
[大]陽光擁紫宵新
由来壮麗渾堪羨
豈擬臨岐涕濕巾

 人の、登極(朝廷即位)を賀して奉使に入るを送る。
※光格天皇(119代)践祚は安永8年(1779年)11月25日。
慶(慶事)を行ふ使臣、辰(宸)を奉命す。
萬方ともに向ふ、受禪(即位)の春。
本支(本末)百世、周典に従ひ、
朝野一時に(※ともに)、仁の代はる(※皇位交代)を仰ぐ。
上苑、花は添ふる、瑞雲の晃らかなるに、
太陽、光は擁す、紫宵(御代)の新たなるを。
由来、壮麗にして、渾て羨むに堪へたり。
豈に臨岐(送別)に擬へ、涕して巾を濕(うるほ)さんや。


 寄懐長古卿客遊東都
江城華麗正堪憐
况復三春花鳥偏
遥羨高歌君自唱
不云行楽有誰邊

 長古卿(※不詳)の東都に客遊するに寄懐す。
※「長」は姓を修したもの。岐阜に多い長屋、長谷川、長尾等の苗字が考へられる。
江城、華麗にして、正に憐むに堪へたり。
况んや復た三春、花鳥に偏(ひと)へならん。
遥かに羨む、高歌して君の自ら唱へる。
云はず、行楽の誰が邊に有るかは。


 賦花亭新晴得麻韻
芳蹊雨霽夕陽斜
帯露枝々引彩霞
看喜幽亭[恴恵]風裡
舊花吹拂促新花

 花亭の新晴を賦す。「麻」韻を得る。
芳蹊、雨霽れて夕陽斜めなり。
露を帯びる枝々、彩霞を引けり。
看て喜ぶ、幽亭の恵風裡
旧花を吹き拂ひて新花を促す。


 春日過伯利亭聴[小]女弾筝
庭階芳樹自氤氳
唯是謝公非出群
膝下将来雛隺和
花間相媚囀鶯聞
停雲色逐羅裙乱
流水響随繊手分
自為曲中堪進酒
傾杯幾度樂春曛

 春日、伯利亭(※不詳)を過ぎりて少女の弾く筝を聴く。
庭階芳樹、自ら氤氳(いんうん)。
唯だ是れ、謝公の群を出づるにはあらず。
膝下、将に来らんとす。雛隺和し、
花間、相ひ媚ぶ。鶯の囀るを聞く。
(※美音に)雲は停まり、色は羅裙の乱れるを逐ひ、
流水の響きは随ふ、繊手の分つに。
自ら曲を為す中、酒を進むに堪へたり。
杯を傾けること幾度、春の曛(たそがれ)を樂しむ。


 賦得白日花蹊静分韻
白日芳蹊塵自空
幽情獨見百花中
衡門非但人蹤静
朶々總無揺韶風

 「白日花蹊静」を賦し得て、韻を分つ。
白日の芳蹊、塵、自ら空にして、
幽情、獨り見る、百花の中。
衡門、但だ人蹤は静かには非らざるも、
朶々、總べて韶風を揺らすことなし。


 同前鳥散餘花落分韻
春色蕭條三両家
嬌鶯啼断少餘花
山丘復自無人問
空拂幽蹊落日斜

 同前。「鳥散餘花落」の韻を分つ。
春色蕭條たり、三両家、
嬌鶯啼断※す、少餘の花。   (※「断」強意)
山丘、復た自ら人の問ふなし。
空しく幽蹊を拂って、落日斜めなり。


 歊雲館集飲醉後春臺生戯擬作飲中八仙歌壮座中八子當意即妙嘆賞傾座予亦不勝咨嗟謾次其韻聊寓絶倒之意醜眉之矉何足以載哉
八達奇趣肝膽同
相見晋代旧風流
一飲百杯氣如虹
争傳錦篇[噱]談中
[就]中最好春臺子
衝口章詞作叢
有人為字云章卿
章成筆動煥無窮
翩々忽開一大篇
無待七歩壓諸公
諸公亦能為勧杯
一唱三嘆声未終
隣舎鶏鳴報五更
歓情無鏧共顧躬
欲去不去蹰躇處
(暁・轉)星(累々・倒々)散西東

 歊雲館(※不詳)の集ひ。飲醉後、春臺生(※不詳)、「飲中八仙歌(※杜甫)」に擬へ作りて壮座中の八子に戯る。當意即妙、嘆賞、座を傾かせ、 予も亦た咨嗟に勝へず。謾りに其の韻に次し、聊か絶倒の意を寓(寄)す。(※西施でもないのに)醜眉の矉(ひそみ)、何ぞ以て載するに足らん哉。
八達(八方)の奇趣、肝膽を同(とも)にし、
相ひ見る、晋代の旧風流(※曲水之宴)。
一たび飲めば百杯、氣は虹の如く、
錦篇を争ひ傳ふ、噱(きゃく:笑)談の中。
就中(なかんづく)、最も好きは春臺子、
口を衝く章詞は叢(詩叢)と作る。
人の、為に字(あざな)を「章卿」と云へる有り。
章成りて、筆動くこと煥(あきら)かにして窮りなく、
翩々、忽ち一大篇を開く。
七歩(※即興詩作の故事)を待つことなく、諸公を壓し、
諸公、亦た能く杯を勧む(※罰杯)を為す。
一唱三嘆、声、未だ終らずして、
隣舎の鶏鳴、五更(夜明け前)を報ず。
歓情、鏧(つ)きることなく共に躬を顧みる。
去らんと欲するも去れず、蹰躇する處、
(暁星累々として・星、倒々と轉じて)西東に散ぜり。


 寄題子睿鶯谷亭
  以所傳聞亭在於 東壑王園池之傍。 王曽令修竹数千竿栽其園中又令鶯数百放其間。蓋所以此亭得名也。子睿 東壑王臣也。
華亭新築對[袛祗]林
殊傍梁園春色深
公子金衣暖初日
此君青玉報繁陰
×(雅游常満琴樽坐)
×(幽賞還高丘壑心)
 鼇頭:嚶鳴常引琴尊友
    [代]木×(偏高)共歌丘壑心
為是黄鸝堪皷吹
不須截竹假龍吟

 子睿の鶯谷亭(※不詳)に題を寄す。
  傳へ聞く所を以てするに、亭は東壑王(東叡山寛永寺)の園池の傍に在り。王、曽て修竹数千竿をして其の園中に栽え令む。 又た鶯を数百、其の間に放ぜしむ。蓋し此亭の名を得る所以なり。子睿は東壑王の臣なり。
華亭の新築、祇林(寺院)に對し、
殊に梁園(※輪王寺門跡)の傍にして、春色深し。
公子の金衣、暖、初まるの日
此君(竹)の青玉(※露)、繁陰に報ず。
×(雅游、常に満つ、琴樽の坐)
×(幽賞、還た高し、丘壑の心)
 鼇頭:「嚶鳴、常に引く琴尊の友、
    伐木×(偏へに高し)共に歌はん丘壑(※隠者)の心」※
是が為に黄鸝(鶯)、皷吹するに堪へたり。
須ひず、竹を截って龍吟(※笛の音)を假るを。
 ※『詩経(小雅・伐木)』「嚶として其れ鳴くは其の友を求むる声。」

 欝彼棲暮春集分韻
欝蓊舊林下
携手此相攀
東北開田闊
青黄鋪艸班
酒醺人轉遠
花落境逾閑
兼惜春風暮
耽幽故懶還

 欝彼棲(※不詳)の暮春の集ひ。分韻。
欝蓊(欝蒼)たる旧林の下、
手を携へて此に相ひ攀づ。
東北、田を開いて闊く、
(※稲・麦)青と黄と、艸を鋪(しきつ)めて班(わか)てり。
酒に醺(よ)ひ、人は轉(うた)た遠く、
花、落ちて、境は逾(いよい)よ、閑たり。
兼ねて惜しむ、春風の暮れるを。
幽(幽境)に耽って、故(ことさ)ら還ること懶し。


 同前詠望嶽柳
楊[柳][毿]々春色濃
嘗穪故識望芙蓉
陽霞萬里今何處
挂雪千條猶幾重
一自歌中窺秀色
長憐陌上謝塵客
况因叔夜能耽隠
遠弄繁陰此耐従

 同前、望嶽の柳(※不詳)を詠む。
楊柳、毿々たり(※垂れるさま)、春色濃かに、
嘗て称す、故識、芙蓉(富士山)を望むと。
陽霞萬里、今、何處ぞ、
雪を挂く千條、猶ほ幾重たり。
一に歌中より秀色を窺ひ、
長(とこし)へに陌上を憐みて、塵客を謝す。
况んや叔夜(嵇康)の能く隠に耽るに因り、
遠く繁陰(樹蔭)に弄して、此に耐へ従ふをや。


 古宮花分韻
古宮春色總荒涼
花艸猶看舊日香
遍帯恩光相媚地
唯今誰更競紅粧

 古宮の花、韻を分つ。
古宮の春色、總て荒涼。
花艸、猶ほ看る、旧日の香。
遍く恩光を帯びて相ひ媚びる地、
唯今、誰か更に紅粧を競はん。


 春夜泛舟分韻
日入長流解纜初
軽風進櫂自徐々
烟波江月光何盡
花岸[柳]堤畫不如
渚白舟前窺宿鳥
淵澄笛裡躍游魚
酣興唯恨春宵短
湛露暁来旋濕裾

 春夜、舟を泛ぶ。分韻。
日、長流に入りて、纜(ともづな)解き初め、
軽風、櫂を進めること、自ら徐々たり。
烟波江月、光、何ぞ盡きん。
花岸柳堤、畫けども如かず。
渚白くして、舟前、宿鳥を窺ひ、
淵澄んで、笛裡、游魚躍らん。
酣興、唯だ恨む、春宵の短きを、
露を湛へて暁来りて、濕裾を旋(めぐら)せり。


 観畫手拂山水
見君濃淡筆如流
流水尖峰拂未休
随[鴈]漸知入佳境
為遥坐訝向滄洲
雨晴遠岫雲猶濕
露裛垂柳烟欲浮
解謂丹青忘老至
須臾物象似仙遊

 畫手の山水を拂ふ(描く)を観る。
君が濃淡の筆、流るる如きを見る。
水流す尖峰、(※筆を)拂って未だ休まず。
雁(を描く)に随ひて漸く(次第に)知る、佳境に入れるを、
遥かに坐す為に訝る、滄洲に向ふかと。
雨は遠き岫に晴れ、雲は猶ほ濕ひ、
露、垂柳を裛(うるほ)し、烟、浮かばんと欲す。
丹青(絵画)は老いの至るを忘らすと謂ふを解せり。
須臾たる物象も、仙遊に似たり。


 江南緑陰分韻
江上春光何處移  鼇頭:初夏
柳條唯見緑陰垂
猶知北[地]花應有
相報須能贈一枝

 江南の緑陰。分韻。
江上の春光、何處に移る。  鼇頭:初夏
柳條、唯だ見る、緑陰の垂れるを。
猶ほ北地には花、應に有るべきを知れば、
相ひ報じて、須らく能く一枝を贈るべし。


 為多賀九江賀乃翁六十
岷峨流水傍高堂
好是春風泛壽觴
觴裡香醪應不盡
九江千里注無[彊]

知爾無[彊]春酒杯
相酬仙氣綺筵開
賀章况映流霞色
遠自蓬莱山上来

 多賀九江(※不詳)の為に「乃翁(我輩)六十」を賀す。
岷峨たる流水、高堂の傍なれば、
好し是れ春風、壽觴を泛べん。
觴裡の香醪、應に盡きざるべし。
九江千里、無疆(永遠)に注ぐ。

知んぬ、爾が無疆たる、春酒の杯、
仙氣を相ひ酬いて、綺筵開く。
賀章(祝辞)、况んや流霞の色に映え、
遠く蓬莱山上より来るをや。


 廢寺殘花
微風蕭索古禪龕
春盡荒涼思不堪
彼岸櫻桃僅餘得
爾時臺殿復何[探]
成堆[芳・埃?]任[人]稀踏
潜翠紅憐鳥未含
攀折終無僧奉佛
殘花徒尚點空潭

 廢寺の殘花
微風蕭索たり、古禪の龕、
春、盡きて荒涼、思ひ堪へず。
彼岸の櫻桃、僅かに餘り得るも、
爾時(そのとき)臺殿(蓮華台)、復た何ぞ[探]らん。
[芳・埃]堆く成すに任せど、人の踏むこと稀に、
翠に潜(かく)れたる紅は憐れにして、鳥未だ含まず。
攀折して終に僧の佛に奉ずること無く、
殘花、徒らに尚ほ、空潭に點ぜり。


 初夏帰[鴈]分韻
天江春盡尚登楼
稀送帰[鴈]思故幽
羨汝洲前遇花落
也能垂暑去邊州

 初夏、鴈帰る。分韻。
天江、春盡きて、尚ほ登楼すれば、
稀(まれ)に帰[雁]を送る、思ひ故(ことさ)らに幽たり。
汝を羨む、洲前、花の落ちるに遇ひ、
也た能く暑に垂(なんなん)として、邊州に去れるを。


 天台山圖
霞標起處望仙宮
玉樹銀臺自欝葱
不信嚠郎家謾憶
轉憐孫綽筆[難]窮
神凄危岸千尋底
誰渡長橋一片虹
翠壁飛流勢如製
直令金石響圖中

 天台山の図。
霞標(※赤城霞起而建標『游天台山賦』)起こさる處、仙宮を望む。
玉樹、銀臺、自ら欝葱たり。
嚠郎(※仙女と放蕩)を信ぜざるも、家は謾(みだり)に憶はれ、
轉(うた)た憐む、孫綽(※『游天台山賦』作者)の筆の窮め難きを。
神凄(凄絶)の危岸、千尋の底、
誰か渡らん、長橋、一片の虹。
翠壁の飛流、勢ひの製せらる(作られた)が如く、
直ちに金石をして、圖中に響か令む。


 初夏賦得臨高臺分韻
落日西山送遠還
高臺極目重相攀
空唯新樹蒼々處
定識行人去此間
  鼇頭:結句思雨囘頭去此間

 初夏、高臺に臨みて賦し得たり。分韻。
西山の落日、遠く還るを送り、
高臺に目を極め、重ねて相ひ攀づ。
空には唯だ、新樹の蒼々しき處、
定めて識る、行人は此の間を去れるを。
  鼇頭:結句「雨を思ふて頭(かうべ)を囘(めぐら)し此の間を去る。」


 初夏山房新晴
簷外陰雲忽報晴
蒼然四面坐相迎
南山翠裂西江奔
東澗虹呑北岳横
穿蘚雨痕餘鳥跡
傳枝露気促蝉声
尤憐新夏蘿衣長
一洗塵襟空世情

 初夏山房の新晴。
簷外、雲陰るも、忽ち晴を報じ、
蒼然たる四面、坐(そぞ)ろに相ひ迎ふ。
南山の翠裂け、西江奔り、
東澗の虹は呑む、北岳の横はるを。
蘚(こけ)を穿つ雨痕は、鳥跡を餘し、
枝を傳ふ露気は、蝉声を促す。
尤も憐む、新夏に蘿衣(薄絹)の長きを、
塵襟を一洗して、世情を空にせん。


 初夏閑居雑詠十首
終年一畝宮
閉在野橋東
看逐殘芳盡
偏憐新翠通
風光與時改
吟咏亦何窮
但為乗眞率
不論工不工

 初夏閑居。雑詠十首。
終年、一畝の宮(狭い家)。  ※『禮記』「儒有一畝之宮、環堵之室。」
閉めて在り、野橋の東。
看て逐ふ、殘芳の盡きるを、
偏へに憐む、新翠の通へるを。
風光は時とともに改まるも、
吟咏、亦た何ぞ窮らん。
但だ、眞率に乗じ為して、
論ぜず、工と不工とを。


愁眠耽夜短
殘夢欲醒慵
忽遇朝暉射
起看晴色封
蒼々松葉察
點々露華濃
爽気時何到
西天[弟]一峰

愁眠、夜耽かして短く、
殘夢、醒めんと欲するに慵し。
忽ち、朝暉の射すに遇ひ、
起きて看る、晴色の(※目を)封ずるを。
蒼々たる松葉を察(み)れば
點々として露華、濃やかなり。
爽気、時に何づこに到る、
西天の第一峰。


三蹊時看客
相迎擁北窻
寧論賓與主
唯任酒盈缸
醉裡同扶杖
門前或下江
似知對君意
鴎鳥復雙々

三蹊(三径:隠棲)、時に客を看、
相ひ迎へて、北窓に擁す。
寧ぞ論ぜん、賓と主と、
唯だ任ず、酒の缸(かめ)に盈たすことを。
醉裡、同(とも)に杖に扶けられ、
門前、或ひは江を下る。
知るに似たり、君が意に對へて、
鴎鳥も、復た雙々。


相送橋頭立
依稀落日垂
更帰吾艸屋
重把客餘巵
孤醉揮毫罷
幽襟隠几被
園林看欲暝
一任晩風吹

相ひ送りて、橋頭に立てば、
依稀たる落日は垂る。
更に吾が艸屋に帰りて、
重ねて客の餘巵を把る。
孤り醉ひ、揮毫を罷めれば、
幽襟(鬱心)、几を被りて隠る。
園林、看れども暝(暮)れんと欲し、
晩風の吹くに一任す。


緑陰最深處
野鳥自飛帰
昏黒猶憑石
徘徊未掩扉
細牽流水帯
半破茘墻衣
皎々驚囘首
月来懸翠微

緑陰、最も深き處、
野鳥、自ら飛び帰る。
昏黒、猶ほ石に憑り、
徘徊して未だ扉を掩はず。
細かに牽く、流水の帯、
半ば破る、茘墻の衣。
皎々たるに驚き、首(かうべ)を回らせば、
月来りて、翠微に懸かれり。


沈々従漏滴
轉愛世塵虚
非矜三冬史
偏耽孟夏書
挑来惜燈盡
讀止擁窻[初]
雲影星纏少
尚疑熒火踈

沈々、(※時計の)漏滴に従ひ、
轉た愛す、世塵、虚なるを。
三冬[文]史(冬の読書)を矜(ほこ)るには非ず、
偏へに耽る、孟夏の書に。(※「九成宮醴泉銘」?)
挑み来って、燈の盡くるを惜しみ、
讀み止めて、窓の初まるを擁す。
雲影、星纏ふこと少なし、
尚ほ疑ふ、[螢]火の踈(まばら)なるかと。


微風半宵冷
欲閉倚桑樞
月影含[光]暗
簷前入望無
群蛙池上乱
陰鳥樹中呼
[暁]色知為雨
暝雲次第敷

微風、半宵冷やかに、
閉めんと欲して桑枢※に倚る。(※粗末な門)
月影、光を含めど暗く、
簷前、入れど望無し。
群蛙、池上に乱れ、
陰鳥、樹中に呼ばふ。
暁色、雨に為るを知る、
暝雲、次第に敷けり。


遮莫衡門下
蓬蒿風雨凄
従来無客到
寧識使人迷
獨酌(宜・従)眠覚
重陰合望低
何妨終日酒
同是醉為泥

衡門の下に遮莫(さもあらばあれ)、
蓬蒿、風雨凄し。
従来、客の到る無く、
寧ぞ識らん、人をして迷は使むるを。
獨酌、(宜しく・従りて)眠り、覚むるべく
重陰(の日)にして、合(まさに)低きを望むべし。
何ぞ妨げん、終日の酒、
同(とも)に是れ、醉ひて泥と為らん。


謾興頻侵雨
頎巾下小齋
雀馴乳傍逕
苔古上空堦
連日如旋厭
閑情亦復佳
安迎同病客
當話此幽懐

謾興、頻りに雨を侵し、
巾を傾けて、小齋に下ろす。
雀は傍逕に乳(※子育て)するに馴れ、
苔は空堦まで上りて古りし。
連日、厭(飽)き旋(めぐ)る如くも、
閑情、亦た復た佳なり。
安んぞ同病の客を迎へ
當に此の幽懐を話すべし。


 初夏帰鴈分韻
春風一自誤帰帆
猶滞汀南遊子衫
幸遇雁群惜花去
數行重更寄封緘

 初夏に雁帰る。分韻。
春風、一たび帰帆を誤ってより、
猶ほ汀の南に滞る、遊子の衫。
幸ひに雁群に遇へば、花を惜んで去る、
數行を重ねて更に、封緘(※雁書)を寄せ。


 賦得江雨聴子規分韻
蕭々雨色暮江昏
啼送子規消旅魂
無奈慇懃促帰去
E茫何處望[郷]園

 「江雨に子規を聴く」を賦し得たり。分韻。
蕭々たる雨色、暮江は昏く、
啼き送る子規、旅魂を消す。
奈(いか)んともするなし、慇懃に帰去を促すも
E茫として何處に郷園を望まん。


 送人経遠灘東遊
思君遠海駕長風
七百灘頭一瞬中
形影如飛辤鳥浦
扶揺直撃𣱿鴻濛
[雪]山(并捲・忽碎)鯨濤白
夜火猶疑龍燭紅
寰外此時若回首  鼇頭:斯(※交換文字不詳)
唯看大嶽兀蒼穹

 人の遠灘(とうとうみ:遠江)を経て東遊するを送る。
君を思ふ、遠海、長風に駕して、
七百の灘頭、一瞬の中。
形影、飛ぶが如く、鳥浦(※村櫛村)を辞せば、
扶揺(旋風)直撃して、圦(いり:土手)鴻濛(混沌)たり。
雪山(并せ捲く・忽ち碎く)、鯨濤の白きを、
夜火、猶ほ疑ふ、龍燭の紅きかと。
寰外、此の時、若し回首せば、
唯だ看ん、大嶽(富士山)の蒼穹に兀たるを。


 雨後鳴蛙分得三江
雨歇蛙鳴喧小江
且眈晴色倚篷窓
更知皷吹人窺去
履跡穿泥自一雙

 雨後に蛙鳴く。(※韻を)分ちて「三江」を得る。
雨歇み蛙鳴く、小江に喧し。
且(しばら)く晴色を眈(にら)みて、篷窓に倚る。
更に知る、皷吹して人の窺ひ去るを。
履跡は泥を穿ちて、自ら一双。


 題友人齋前假山水三首
瀟洒幽閑地
應令茅屋移
不看心匠巧
水石自然奇

 友人の齋(書斎)前の假山水に題す。三首。
瀟洒、幽閑の地。
應に茅屋をして移しむべし。
心匠(工夫)の巧みを看ず。
水石は自然の奇なれば。


縮地塁千岩
源泉幽一[斤]
却疑市井隣
應向壺中見

縮地(※仙術)、千岩を塁(かさ)ねて、
源泉は、幽かなる一沂。
却って疑ふ。市井の隣、
應に壺中に向って見るべし。


翠烟成近遠
峰勢且崔嵬
誰識圖中物
君従掌裡来

翠烟は近遠を成し、
峰勢、且つ崔嵬たり。
誰か識らん、圖中(計画通り)の物、
君の、掌裡に従ひて来たるを。


 與長古卿
不佞二三兄弟
毎相見交臂相謂
古卿今如何哉而非不心居乎魏闕之下也
不知足下亦會四方群雄 當周旋討論之時 一為我軰得無意未嘗不有巨[鹿]乎
何如何如足下附鳳洛橋之陽 [秡]萃小丘園之状 向已承聞焉 壮遊哉
古卿當今時海内[庶]且富
無若東海大風泱々[況]
天下英俊繼踵輻湊 猶亀魚向龍門
然而後足下學益博志益大 可推知也
嗚呼 人其孰不庶幾壮遊如足下者
而男児生有[少]志者
亦孰有不佞区々 自守如局促轅下者哉
不佞𩿪鷃雖固其分於小室之間
毎一念之至 未嘗不奮飛觸四隅也
大抵藩中之諸友及諸侯之臣子重装裹足
抜渉大都者歳不為不多
而亦[有官有守出入有時而展錯之機常拘々乎心]
而不遑遊息藝苑也
足下如此挙可謂澤雉脱樊籠百飲一啄
何不可之有 實長鳴之期 其在於斯乎
昔人曰 時乎時不再来勉旃哉
是即足下所固何待(不佞・良也)之言
唯良不任附驥之情
自言千里欽下風耳
其已如此他豈足言
帰期亦近刮目待矣

 長古卿(※不詳)に與ふ。
不佞(私)の二三兄弟、
相ひ見る毎に臂を交へて相ひ謂ふ。
古卿は今、如何なる哉と。而して心は魏闕(王宮)の下※に居らずんば非らんかと。※
(※『荘子』「身在江海之上、心居乎魏闕之下、奈何。」栄華を忘れられない)
知らず、足下また四方の群雄に會ひ、周旋に當れるを。
討論すべきの時、一に我輩の為に無意を得るならば
未だ嘗て巨鹿(の戦?)有らずんばあらず。何如何如(どうなのか)。
足下の洛橋之陽(※洛橋の北:宮城)に附鳳し、小丘園の状を抜萃するは向(さき)に已(すで)に承り聞く。壮遊かな。
古卿、今時の海内に當りては、庶(おほ)く且つ富める。東海の大風泱々たる[況]に若くはなし。
天下の英俊、踵を継いで輻湊すること、猶ほ亀魚の龍門に向ふがごとし。
然れども而して後、足下の學は益(ますま)す博く、志は益す大なるは、推して知るべき也。
嗚呼、人其れ、孰(たれ)か壮遊を庶幾せざらん。
足下の如き者にして而して男児に生れて[少]志の有る者、亦た孰れか有らん。
不佞は区々として自ら守り、轅下に局促するが如き者哉。
不佞は斥鷃(管見)にして、其の分を小室の間に於いて固くすると雖も、毎に之を一念す。
未だ嘗て奮飛して四隅に觸れずんばあらざるに至る也。
大抵の藩中の諸友、及び諸侯の臣子は装を重ねて裹足し(進まず)、大都を抜渉せん者は、歳為らず(また)多からず。
而して亦た[官有りて守る有り、出入するに時有り、而して錯まる機を展べては常に拘々乎(拘り)たる心]、而して藝苑に遊息する遑はあらざる也。
足下の此の挙の如きは「澤雉の樊籠を脱して百飲一啄する」と謂ふべし。
(※『荘子』澤雉は十歩に一啄し百歩に一飲するも樊中に畜はるを求めず。)
何の不可か、これ有らん。實に長鳴の期、其れ斯に於いて在らん乎。
昔人曰く、「時かな、時は再来せず、勉旃(努力)せん哉」と。
是れ即ち足下の固くする所にして、何ぞ不佞の言を待たん。
唯だ良(自分)は附驥の情には任せず(上には諂はず)、千里、下風に欽しむ(自若たらん)と自ら言ふのみ。
其れすでに此の如きにして、また豈に言を足さんや。
帰期また近ければ刮目して待つ。


 中夏江上新晴
江頭雨歇獨行吟
葛綌偏憐涼気侵
落盡洲梅薫尚濕
浸来山樹緑逾深
望窮鵬際飛揚劇
興信魚舟自在臨
何必洞庭素秋好
清風五月潤幽襟

 中夏、江上の新晴。
江頭、雨歇みて獨り行吟す。
葛綌(かつげき:粗末な衣服)偏へに憐む、涼気の侵すを。
落ち盡す洲梅、薫り尚ほ濕り、
浸し来る山樹、緑、逾よ深し。
望は窮まる、鵬際(大空)の飛揚劇しきに、
興は信(たよ)る、魚舟の自在に臨むに。
何ぞ必ずしも洞庭の素秋を好しとせん。
清風五月、幽襟を潤す。


 雨中清泉分韻
簷外風光總不明
暗然暝雨幾時晴
寒泉無管泥塗濁
猶濯塵纓獨自清

 雨中清泉、分韻。
簷外の風光、總て不明、
暗然たる暝雨、幾時にか晴る。
寒泉は管せず、泥塗に濁れるを。
猶ほ塵纓を濯げるがごとく、獨り自ら清し。


 重古卿
足下文墨日新之状
時得悉之家君書中爰所辱彩箋及佳稿數章已拝
乃讀儼然格體整齊也哉
来詩云讀[良也]祭洲上人之鄙文意旨
懇々凄愴無止時
實足下悼洲公而懐良也、、、而及鄙文邪何其屋烏之至也
如鄙文不足言
但良也蒙上人之撫愛足下所知也
今茲仲春宿艸将生悲痛之餘
非敢酬徳陳鄙懐耳
不[虞]致之千里外
得高明足下之覧也
慚愧不啻而後良愚窃意
如此之貺 何以得之足下
唯是上人之純厚猶尚憫良也不肖幸有所未弃耶
神理綿々不與気運盡暫假知友之高手喩幽明無隔之意
亦未可知也
良也以之且慰且感往年數従足下講書曇華室也
校讎攻日夕談論継以火
而後三人相視莫逆於心 不亦楽乎
一朝飜然洲公蝉脱足下東矣
徒碌々此土者不佞良耳
噫謂之則使酸鼻常強置之度外乎
欝霖時未定動五月被裘 為皮相之態
足下慎自重先是前書
會今拝厚貺 併附上稽
報之惜[萬]知己惟仰
    鼇頭:己成未報

 古卿(長古卿)に重ぬ。
足下の文墨、日に新たなるの状、時に之を家君の書中に悉らかに得る。
爰に彩箋及び佳稿を辱くする所、數章すでに拝す。
乃ち讀むに儼然たる格體、整齊なる也哉。
来詩に云ふ。[良也(東皐)]「洲上人(智洲上人)を祭る」の鄙文(拙文)を讀むと。
意旨、懇々として凄愴、止む時無く、實に足下の洲公を悼み、而して良也をも懐ふ。良也を懐ひて而して鄙文の邪にも及べり。何ぞ其れ屋烏(寵愛)の至りならんや。
鄙文が如きは言ふに足らず。
但だ良也の上人の撫愛を蒙るは足下も知る所也。
今茲仲春、(墓に)宿艸将に生へんとす。悲痛の餘り、敢へて徳に酬ゐるに非ずして、鄙懐を陳べるのみ。
不[虞](不慮)にして之を千里の外に致し、高明なる足下の覧を得る也。
啻(ただ)に慚愧するのみならず、而して後、良愚窃(ひそ)かに意ふ。此の如きの賜、何ぞ以て之を足下に得んかと。
唯だ是れ上人の純厚、猶ほ尚ほ憫れむごとし。良也の不肖、幸ひにも未だ棄てられざる所有らんか。
神理綿々として気運の盡きる與らず、暫し知友の高手を假りて、幽明無隔の意に喩ふ。
亦た未だ知るべからざる也。
良也、之を以て且つ慰め且つ感ず。
往年、數(しばし)ば足下に従ひて曇華の室にて講書するや、校讎攻めて、日に夕に談論、継ぐに火を以てし、 而してのち三人(東皐・古卿・智洲)心に於いて莫逆と相ひ視る。亦た楽しからずや。
一朝飜然として洲公、蝉脱し、足下は東す。
徒らに碌々として此の土にある者は不佞、良(東皐)のみ。
噫、之を謂へば則ち酸鼻ならしめ、常に強いて之を度外に置かしむる乎。
欝霖、時に未だ定らず、動もすれば五月に被裘す。皮相の態を為すも、足下、慎みて自重せよと、先ず是れ前書す。
會(たまたま)今、厚賜を拝し併び附して稽(稽首)を上し、之を報じて、知己を惜み、惟だ仰ぐ。
    鼇頭:己に成るも未だ報ぜず。


 夏晩剪掃庭堦
睡起窓前催夕陽
盤桓擁彗偃松傍
侵蹤堦艸除滋蔓
遮望庭柯伐[遠]揚  鼇頭:纔
繞灌軽埃園裏暮
看来初月雨餘涼
相門知遇非吾願
聊避炎塵世外忘

 夏晩、庭堦を剪り掃く。
睡り窓前に起きれば、夕陽を催す。
盤桓(うろうろ)と彗(箒)を擁す、偃松の傍。
蹤を侵せる堦艸、滋れる蔓を除く。
望を遮ぎる庭柯、伐れば遠く(纔かに)揚がる。
軽埃を繞り灌ぎて、園裏暮れ、
初めて月を看来れば、雨餘涼し。
相門(貴顕)の知遇は吾が願ひに非ず。
聊か炎塵を避けて世外に忘れん。


 河畔緑楊分韻
河邊垂楊翠依々
不似春来綰得微
却厭結陰繁葉々
無由逈望客舟帰

 河畔の緑楊。分韻。
河邊の垂楊、翠、依々たり。
春来たるに似ず。微(翠微)を綰(つな)ぎ得る。
却って厭ふ、陰を結びて葉々繁れるを。
由無くして逈かに客舟の帰るを望む。


 季夏送村穆卿之東都兼寄長生
東連岐阻十三峰
蒸気行凌翠靄重
碧岸羊腸囘也出
白雲人面去還従
櫻花澤畔春安在
桔梗原頭秋未逢
猶是炎々無散思
鵝湖千載玉芙蓉

 季夏(6月)、村穆卿(※不詳)の東都に之くを送り、兼ねるに長生(※)に寄す。
東に連なる、岐阻(木曽)十三峰、
気は蒸し、行は凌ぐ、翠靄の重なりを。
碧岸の羊腸(山道)、回りまた出で、
白雲の人面、去り還た従ふ。
櫻花、澤の畔、春、安くにか在らん。
桔梗、原の頭(ほとり)、秋、未だ逢はず。
猶ほ是れ炎々として思ひ散ずること無し、
鵝湖(諏訪湖・鵝湖の会)と、千載の玉芙蓉(富士山)と。


危險行々何解装
海門初望早秋涼
高楼百尺迎明月
清酒十千浮羽觴
操筆友主旧相話
探珠龍口興偏長
(此時・時逢)仲子(如尋我・猶留滞)
幸報東皐(故態狂・[𣑰]已香)

危險、行くゆく、何ぞ装を解かん。
海門、初めて望む、早秋涼し。
高楼百尺、明月を迎へ、
清酒十千、羽觴を浮べん。
筆を操る友主、旧相話
龍口に珠を探して興、偏へに長し。
此の時、仲子(※不詳)、我に尋ぬるが如し
(時に仲子に逢ふ、猶ほ留滞するごとし)
幸ひに報ず、東皐は故(ことさ)らに狂を態すると。
(幸ひに報ず、東皐の桼(うるし)は已に香ると。)


 七夕泛舟
一葉尋涼七月天
晴宵風度大江邉
影迎星宿流螢點
光映絳河匹練連
戀賞由来従聚散
同心繋得且回旋
不須駕隺吹笙去
何處如倶仙侶舩

 七夕、舟を泛ぶ。
一葉、涼を尋ぬ、七月の天。
晴宵、風度(わた)る大江の邉。
影は星宿を迎へて、流螢點じ、
光は絳河(天の川)に映じて、匹(なら)び練り連らぬ。
戀は賞す、由来聚散に従ふを。
心を同じうす、繋ぎ得て且つ回旋(めぐ)るを。
須ひず、鶴に駕して笙を吹きて去ること、
何處に倶にせん、仙侶の舩の如くに。


月似銀鉤波際傾
涼風猶是進橈軽
定知天上歓應切
此處人間興正清
縹渺成橋烏鵲度
懸翩連管鳳凰迎
去留不繋心如水
一任囘流河漢横

月は銀鉤に似て、波際に傾き、
涼風は猶ほ是れ、橈を軽く進めるがごとし。
定めて知る、天上の歓は應に切なるべく、
此處の人間(じんかん)も、興は正に清し。
縹渺たる橋成りて、烏鵲、度(渡)り、
翩を懸け管を連ねて、鳳凰、迎ふ。
去留、心は水の如く繋がれず、
回流に一任す。河漢の横はるに。


 初秋聞陰虫分韻
涼風一自密林開
幾許陰蟲終夜催
歳々為誰不相誤
苦吟秋意入悲哉

 初秋、陰虫を聞く。分韻。
涼風一たび、自づと密林開く。
幾許(いくばく)の陰蟲、終夜催す。
歳々、誰が為にか相ひ誤らまざる。
秋意を苦吟して悲しみに入らしむ哉。


 七夕前夜艸堂小集分新字
秋早荒園趣復新
濁醪閑月暫堪親
陰蟲吟入詩曹思
晩菜羹憐艸屋貧
玉笛琴音無曲假
寒泉松籟自天眞
且誇五色揮毫處
明日将傳乞巧人

 七夕前夜、艸堂小集「新」字を分つ。
秋早くして荒園、趣き復た新たなり。
濁醪、閑月、暫らく親しむに堪へたり。
陰蟲は吟じ入る、詩曹(詩人)の思ひを、
晩菜の羹は憐む、艸屋の貧を。
玉笛と琴音と、曲無ければ假(まにあは)せん、
寒泉と松籟と、自ら天眞たり。
且(しばら)く五色を誇る、揮毫する處(※短冊)、
明日、将に傳へんとす、乞巧の人に(※乞巧奠:七夕)。


朝渉花園夕嗽泉
朝々夕々奉金仙
身心自是無塵染
閑送香風白玉蓮
  右題法泉庵

朝は花園を渉り、夕は泉に嗽ぐ。
朝々夕々、金仙(仏陀)を奉ず。
身心、自ら是れ塵に染まる無し。
閑(しづ)かに香風を送る、白玉蓮。
  右、法泉庵に題す。


 秋日題友人隠居
秋山莫見不蕭然
物色相迷落葉天
長嘯一声何所處
閑雲半嶺僅低邉
松横艸屋蒼龍臥
窓對林巣白霍眠
談罷将迎明月去
也聞呦[鹿]故蝉連

 秋日、友人の隠居に題す。
秋山、見るに蕭然ならざるは莫く、
物色、相迷ふ、落葉の天。
長嘯一声す、何所の處ぞ、
閑雲半嶺、僅かに低(たれ)る邉。
松は艸屋に横たはり、蒼龍臥し
窓は林の巣に對し、白霍眠る。
談罷み、将に明月の去るを迎へんとすれば、
また鹿の呦(さけ)び、故(ことさ)らに蝉連する(鳴き続く)を聞く。


 江路殘月分韻
大江犯暁下秋陰
風冷長堤思不禁
無限水天渾呑一
一痕殘月自沈々

 江路の殘月、分韻。
大江、暁を犯して秋陰(曇天)下り、
風冷ゆ長堤、思ひ禁ぜず。
無限の水天、渾て一に呑まる。
一痕の殘月、自ら沈々たり。


 山館秋夕
秋山人絶静柴門
况對蕭條落日昏
獨徃誰知此時思
前溪明月後溪猿

 山館の秋夕。
秋山、人絶えて静かなる柴門。
况して蕭條たる落日昏きに對するをや。
獨り往く、誰れか知らん、此時の思ひ、
前溪の明月、後溪の猿(※の悲鳴)。


 送人卜隠宇治
荷衣新製向何郷
鳳闕東南[兔道]傍
川上洗纓嘯秋霽
山頭晞髪吸朝陽
歌尋隠士幽棲地
賦弔源家古戦場
莫謂優游日無事
品茶須慰午眠長

 宇治に卜隠(隠居)する人を送る
荷衣(仙人の服)を新製して、いづこの郷に向ふや、
鳳闕(皇居)の東南、莵道(うぢ)の傍。
川上に纓を洗ひて、秋霽に嘯き、
山頭に髪を晞(乾)かし、朝陽を吸ふ。
歌は尋ぬ、隠士幽棲の地、
賦は弔ふ、源家の古戦場(※宇治川の戦)。
謂ふ莫れ、優游、日に事なきと、
品茶して須らく午眠の長きを慰むべし。


 七月十五夜送人之東都
君去驛亭何日休
涼風途送満輪秋
到時重望今宵月
纔傍西山有若鉤

 七月の十五夜、人の東都へ之くを送る。
君、驛亭を去って何れの日か休む。
涼風、途に送る、(菊花・月)満輪の秋。
時到りて重ねて望む、今宵の月(満月)、
纔かに西山の傍、鉤(掛)る若く有らん。


 秋夜過數陽先生賦此慰悼亡
閑話君唯須自寛
人間哀楽孰知端
潘生鬢轉裁詩老
荘叟盆終解怨難
庇蔭女羅霜密破
孤高松幹奈年寒
無為望月蹇空悵
風冷清砧秋更闌

 秋夜、数陽先生(※不詳。しばしば東陽先生?)を過ぐ、此を賦して悼亡(奥方逝去)を慰む
閑話す、君、唯だ須らく自ら寛(ゆる)うすべしと。
人間の哀楽、孰れか端を知らん。
潘生は鬢(白髪に)轉じて、詩に老いを裁し、(※潘岳「秋興賦并序」)
荘叟は盆を終へるも、怨みを解くこと難し。(※荘子が亡妻を悼み盆を叩いた故事)
庇蔭の女羅(さるおがせ)、霜、密にして破れ、
孤高の松幹、年、寒きを奈(いか)んせん。
為すことなく月を望み、蹇(なや)み空しく悵く。
風、清砧に冷ゆ、秋、更闌(こうた)けたり。


 送渡哲夫之京師
雄姿見説不群才
毛羽初凌霄漢開
夕宿琶湖千頃渚
朝翔鳳闕五雲隈
元知野隺難留得
好伴遊仙須去来
但遅遍窺丹穴後
佳鳴逈自日邉廻

 渡哲夫の京師に之くを送る。
雄姿、見るならく、群れざる才、
毛羽(翼)、初めて凌ぐ、霄漢(天)の開くを。
夕べに宿る、琶湖(琵琶湖)千頃の渚、
朝(あした)に翔る、鳳闕(禁裏)五雲の隈。
元と知る。野鶴(たる君)の留め得難きを。
好く遊仙を伴ひ、須らく(故郷へ)去来すべきなるを。
但だ遅(待)つ、遍く丹穴(※不詳)の後を窺ひ、
佳鳴(良い風聞)、迥(はる)かに自ら日邉(天子の周囲)を廻るを。


 遠村秋砧分韻
秋風天末起
瑟々冷衣巾
荒落茫何處
寒砧(更・杳)幾人
声幽響轉苦
望遠情逾頻
月出纔留杵
偏應添思新

 遠村の秋砧、分韻。
秋風、天末に起き、
瑟々として衣巾冷ゆる。
荒落、茫たるは何處、
寒砧、(更に・杳として)幾人。
声は幽かなれど、響き轉た苦(はなは)だにして、
望遠すれば情、逾よ頻りなり
月出でて纔かに杵を留むれば、
偏へに應に思ひ新たに添ふべし。


 中秋
賞月歓筵興自豪
氷心相見照同袍
無邉星漢繊塵絶
不隔関山萬里高
影使冥鴻迷夜雪
光迎白兔察秋毫
樽前共謂顔如玉
安識[適]仙非我曹

 中秋。
月を賞づる歓筵、興、自ら豪たり。
氷心、相ひ見て同袍を照らす。
無邉の星漢、繊塵絶え、
隔てず。関山萬里の高きを。(李白「関山月」)
(月)影、冥鴻(夜行の雁)をして、夜雪に迷はしめ、
光、白兔を迎へて秋毫を察す。
樽前、共に謂ふ、顔如玉(書中の美女:『聊斎志異』)、
安んぞ識らん、謫仙(たくせん)は我曹に非ざるを。


 中秋龍峰[它]集
良宵開宴夜光觴
相照相酬楽未央
人醉南楼同嘯月
鴻辞北海尚疑霜
探珠興照龍峰動
攀桂情憑烏几長
縦有家々發歌女
孰如三五倚新粧

 中秋、龍峰(※不詳)[宅]の集ひ。
良宵、宴開く、夜光の觴、
相ひ照し相ひ酬いて楽しみ未だ央ばならず。
人、南楼に醉ひて同(とも)に月に嘯き、
鴻、北海に辞せば、尚ほ霜かと疑ふ。
珠を探して興は照らす、龍峰の動くを、
桂に攀ぢて情は憑る、烏几(※不詳)の長きを。
縦い家々に歌を發する女の有れど
三五(十五夜)の新粧に倚るに孰如(いづれ)ぞ。


 同前賦贈古卿。古卿特自東都還
此夕高[館]堂興故饒
三秋離恨頓堪消
幽情共迓西山爽
豪気猶驕東海潮
嚢裡錦先楓樹發
樽中香向桂叢飄
且知探得遊仙窟
談笑使人心謾揺

 同前。賦して古卿(※前述)に贈る。古卿、特に東都より還る。
此の夕の高堂、興、故(ことさ)らに饒し。
三秋の離恨、頓に消すに堪ふ。
幽情、共に迓(むか)へん、西山の爽に。
豪気、猶ほ驕らん、東海の潮に。
嚢裡の錦、楓樹に先だちて發し
樽中の香、桂叢に向ひて飄へる。
且つ知る、遊仙窟(吉原遊郭)を探り得て、
談笑、人をして心、謾(みだ)りに揺らしむるを。


 中秋雨二更初晴攸然獨酌
待霽園林雨僅休
微茫烟霧望猶幽
金風忽拂東南外
銀鏡初開三五秋
烏鵲棲明起中夜
琴樽與到憶同遊
徘徊誰識閑庭裡
獨抱玄珠無處投

 中秋、雨二更にして初めて晴れ悠然、獨酌す。
霽るるを待ちし園林、雨僅かに休(や)み、
微茫たる烟霧、望めば猶ほ幽かなり。
金風、忽ち拂ふ、東南の外、
銀鏡、初めて開く、三五(十五夜)の秋
(天界の)烏鵲、棲(すみか)明るく中夜に起こし、
琴樽、與に到りて、同遊を憶ふ。
徘徊、誰か識らん、閑庭の裡、
獨り玄珠を抱きて投ずる處なし。


 観華山圖
西方大嶽鎖崢エ
萬仞烟光咫尺明
九節杖飛何用假
三峰筆削自堪成
坐連白帝秋逾冷
臺拂青天雲未晴
疑是神仙重劈去
却令塵客掌中近

 華山図を観る。
西方の大嶽、崢エとして鎖し、
萬仞の烟光、咫尺、明かなり。
九節杖(仙人の杖)飛ばすは、何の用にか假りん。
(華山の)三峰、筆削して、自ら成るに堪へたり。
連なり坐す白帝、秋、逾よ冷え、
臺、青天を拂ひて、雲、未だ晴れず。
是れ神仙かと疑ひ、重ねて劈(さ)き去れば、
却って塵客をして掌中に近からしめん。


 重陽上養老山
雲裡登高古佛龕
境移盧岳藹烟嵐
飛流直逐青蓮跡
泛酒兼開黄菊潭
養老況逢佳節會
交歓何厭醴泉甘
休嘲狂態頻傾帽
風是龍山自澗南
  養老山南有龍峰

 重陽、養老山に上る。
雲裡に登高すれば 古佛の龕、
境は移る、盧岳の藹烟の嵐(青嵐)に。
飛流は直ちに逐ふ 青蓮の跡、※1
酒に泛べるに兼て(前もって)開く。 黄菊の潭※2
養老 況や佳節の會に逢はんとは、
交歓 何ぞ厭はん醴泉の甘きを。
嘲けるを休めよ 狂態 頻りに帽を傾けるを。※3
風は是れ龍山 澗の南よりす。
  養老山南に龍峰(※前述)有り

※1青蓮居士(李白)の詩「望廬山瀑布」の「飛流直下三千尺」を踏まへる。
※2酒に菊を浮かべた陶淵明を踏まへる。
※3龍山の宴にて孟嘉が落帽した重陽の故事を踏まへる。


 渉友人薬園
園裡秋光満目清
千叢區別且縦横
援車品自南方至
漢使[根]功辞西域榮
總似藍田交葉緑
更疑朱實捧珠明
渉休轉覚衣襟潔
中有芬芳君子名

 友人の薬園を渉(わた)る。
園裡の秋光、満目清し。
千叢区別して、且(しば)らく縦横す。
援車の品は、南方より至り、
漢使の功は、西域の榮を辞す。
總て藍田の葉緑を交へるに似て、
更に朱實の珠明を捧げるかと疑ふ。
渉るを休(や)めて轉(うた)た覚ゆ、衣襟の潔きを
中に芬芳「君子の名」有り。 (※使君子?)


 重陽入夜藤大人見過月下同酌分韻十灰
陶家無復白衣来
獨酌蕭々醉未催
暮景看憐[令]佳節過
殘樽豈意駐君開
東籬逈對南山月
丹桂併薫黄菊杯
不用欲眠頻促去
中宵諷詠興悠哉

 重陽、夜に入り、藤大人(※不詳)過ぎられ月下同酌す。十灰(上平声の韻)を分韻す。
陶家、復た白衣の来る無く、(※陶淵明「白衣送酒」故事)
獨酌、蕭々として、醉ひ未だ催さず。
暮景、看れば憐む、佳節の過るを、
殘樽、豈に意(おも)はんや、君を駐めて開くを。
東籬、逈(はる)かに南山の月に對し、
丹桂、併びに薫る、黄菊の杯に。
用せず、眠らんと欲して頻りに去るを促すを。
中宵の諷詠、興は悠たる哉。


 林臥分韻
秋林好高臥
天籟自堪聞
絳帳楓披錦
青[氈]苔作紋
夢牽松幹瑞
蝶逐桂花薫
随意凋零盡
坐看繊月分

 林に臥す。分韻。
秋林、高臥に好し、
天籟、自ら聞くに堪へたり。
絳(あか)き帳、楓は錦を披げ、
青き氈、苔は紋を作せり。
夢は牽く、松幹の瑞、
蝶は逐ふ、桂花の薫。
随意に凋零して盡き、
坐(そぞ)ろに看る、繊月に分れるを。


 秋日逢道士自芳野山還
秋入金峰紅樹巓
攀帰見汝錦衣鮮
苦辛幾度艱難地
秘訣誰傳道暦篇
風雨谷陰役山鬼
雲霞洞古謁神仙
相留将問南朝事
日色蕭々寒暮天

 秋日、道士の芳野山より還るに逢ふ。
秋に入る、金峰、紅樹の巓、
攀ぢ帰る、汝の錦衣鮮やかなるを見る。
苦辛、幾度、艱難の地に、
秘訣、誰か傳へん、道暦の篇。
風雨の谷陰に、山鬼を役し、
雲霞の洞古に、神仙に謁す。
相ひ留めて将に南朝の事を問はんとすれば、
日色、蕭々として暮天を寒からしむ。


 西郊秋意
蓴鱸豈是此亭求
適意唯甘風色幽
巣燕将児従汝去
籬花催節待人遊
牛羊下至西山晩
粳稲遍開南落秋
幸有芭蕉猶未破
閑題野興且淹留

 西郊秋意。
蓴鱸、豈に是れ、此の亭に求めんや。
意に適ひて唯だ甘し、風色の幽たる。
巣燕は児を将って汝の去るに従ひ、
籬花は節を催して人の遊ぶを待つ。
牛羊、下り至る、西山の晩
粳稲、遍く開く、南落の秋
幸ひに芭蕉の猶ほ未だ破れざる有り、
閑かに野興に題して、且(しば)らく淹留せん。


 九月十三夜作
良筵不難再
再照桂花香
晴駐中秋朗
遊憐此夜長
任他虧玉鏡
何厭満金觴
坐見流霜白
或驚催暁光

 九月十三夜の作。
良筵、再び難からず、
再び桂花の香るを照さん。
晴れを駐めて、中秋、朗らかに、
此の夜長も遊び憐まん。
任他(さもあらばあれ)玉鏡(月)は虧くとも、
何ぞ厭はん、金觴を満すを。
坐ろに霜の白く流れるを見、
或は暁光の催すに驚かん。


 溪邉殘菊分韻
溪邉黄菊就荒斜
猶自幽芳[紛]水涯
縦是青松後凋美
冶容何似傲霜花

 溪邉の殘菊、分韻。
溪邉の黄菊、荒斜に就き、
猶ほ自ら幽芳、水涯に紛たり。
縦(たと)ひ是れ青松の後凋の美(節操)も、
冶容、何ぞ似ん、霜花の傲るに。


 秋夜艸堂集。同賦月光疑夜雪分韻
艸堂明月駐賓看
轉覚添光四壁寒
莫是高歌妒難和
偏凝素雪照毫端

 秋夜艸堂集。同に「月光、夜雪かと疑ふ(※『類聚句題抄』より)」分韻して賦す。
艸堂の明月、賓を駐めて看る。
轉た覚ゆ、光を添へるも四壁の寒なるを。
是れ、高歌するも和し難きを妬む莫かれ。
偏へに素雪(白雪)の毫端を(※隈無く)照すに凝さん。


 同前有東陽先生過松風斉作、次高韵奉謝二首
何人高調弄幽情
風韵冷々秋更清
餘響渾留庭樹颯
朝来猶自拂商声

巾車留處鎖松梧
少長将来照道衢
豈料不才憑膝下
猶陪星彩似連珠

 同前。東陽先生(守屋東陽)の「松風斉しく過ぐ」の作有り、高韵に次して奉謝する二首。
何びとの高き調べか、幽情を弄す。
風韵冷々として秋、更に清し。
餘響、渾(まじ)りて留む、庭樹、颯たり。
朝来れば猶ほ(※松風)自ら商声(松籟)を拂はん。
巾車(先生の車)留まる處、松梧鎖す。
少長(老いも若きも)将に来りて道衢を照さんとす。
豈に料らんや、不才の膝下に憑ること、
猶ほ星彩の連珠に似たるごときに陪すなるを。


 同前和子信
投来明月漏疎桐
庭裏烟光秋未終
君謂松梢好成韻
應因詩筆起清風

 同前。子信(※不詳)に和す。
投来せる明月、疎桐に漏る。
庭裏の烟光、秋未だ終らず。
君謂ふ松梢は、韻を好く成すと。
應に詩筆に因りて清風を起すべし。


 滕王閣圖
袞々長江披練流
嶬峨高閣架雲浮
綺筵歌舞渾何在
畫棟丹青獨自留

 滕王閣の図 ※中国三大名楼
袞々たる長江、練流を披(ひら)き、
嶬峨たる高閣、雲に架りて浮ぶ。
綺筵歌舞、何在(いづ)こに渾(まじ)れる。
畫棟の丹青(彩色)、獨り自ら留む。


 冬暁過酒家分韵二首
風霜不耐暁凄清
留馬幸従砂店迎
暖酒且要避衣冷
爐烟褧々影猶軽
砂店暁光侵欲晴
繁霜宿霧尚慵行
擧杯暫待朝暉至
紅日醉顔相映生


 冬暁、酒家を過る。分韻二首。
風霜、暁の凄清に耐へず。
馬を留めて、幸ひに砂店※の迎ふるに従ふ。※汀の茶店?
暖酒、且(しばら)く要す、衣の冷ゆるを避くるに。
爐烟、褧々として、影猶ほ軽し。

砂店、暁光侵して、晴れんと欲す。
霜は繁く霧を宿して、尚ほ行くこと慵し。
杯を擧げ暫し待つ、朝暉の至るを。
紅日と醉顔と、相ひ映えて生ず。


 西郊閑歩
數里西郊外
秋光何所依
香粱收半盡
紅葉染還飛
吟眺行相愜
去留渾不違
無心問前路
偶雨出漁磯

 西郊の閑歩。
數里、西郊の外、
秋光は、何所にか依る。
香粱(高粱)收めて半ば盡き、
紅葉染まりて還び飛べり。
吟と眺と、行(ゆく)ゆく相ひ愜(かな)へば、
去るも留るも、渾(まった)く違はず。
無心にして前路を問へば、
雨に偶(遇)ひ、漁磯に出でり。


 寒江夜泊
晩日蒼茫寒水烟
孤舟旅泊一淒然
従流身恨萍蹤遠
留渚雁呼菰米懸
柳岸露垂暗霑枕
篷窻風切未成眠
故山暁雪因堪憶
回首凍雲江北偏

 寒江の夜泊。
晩日蒼茫たり、寒水烟。
孤舟の旅泊、一に淒然。
従流(流浪)の身は恨む、萍蹤の遠からんを、
渚に留る雁は呼(喚)ぶ、菰米の懸るに。
柳岸に露は垂れ、暗(やみ)に枕を霑ほし
篷窓に風は切(切実)にして、未だ眠りを成さず。
故山の暁雪、因って憶ふに堪へたり。
回首す。凍雲の江北に偏へなるを。


 山家小春分韻
山下小春春不虚
南軒曝背意堪舒
楓林錦為烟霞暖
二月紅花留自如

 山家の小春(※十月)。分韻。
山下の小春、春、虚(うそ)ならず。
南軒に背を曝せば、意、舒ばすに堪へたり。
楓林は錦を為す、烟霞暖かに、
二月(ふた月)紅(葉)と花(菊)と、留まりて自如(不変)たり。


 冬夜集僧院分韻
聊乗秋後興
尋到旧苔蹊
分露衣珠冷
傳燈月樹低
境閑聞葉下
鐘度覚霜凄
莫怪忘言客
交情筆自題

 冬夜、僧院に集ふ。分韻。
聊か秋後の興に乗じ、
尋ね到る、旧(なじみの)苔蹊。
露を分けて、衣と珠(数珠)冷え、
傳燈の、月は樹に低し。
境、閑かにして、葉の下(お)ちるを聞き、
鐘、度(わた)れば、霜の凄たるを覚ゆ。
怪しむ莫かれ、言を忘るる客を。
交情は、筆にて自ら題さん。
 

 冬夜隠士[它]読書
聊避塵喧此耐憐
短燈相照竹爐邉
三冬未必誇文史
異代唯甘友聖賢
四壁寒光疑月鑿
半窓凝素著花鮮
君家下物如斯好
婁倒杯樽向暁天

 冬夜、隠士の[宅]、読書。
聊か塵喧を避く。此れ憐れむに耐へたり。
短燈、相ひ照らす、竹爐の邉。
三冬、未だ必しも文史を誇らず、
代を異にして唯だ聖賢を友とするに甘んず。
四壁の寒光、月の鑿つかと疑ひ、
半窓、素(しろ)きに凝(こご)る、著花(梅花)の鮮しきに。
君が家の下物、斯の如く好し。
杯樽を婁(ひきよ)せ倒して暁天に向ふ。


 有同諸子集僧院之約。予病不果賦以寄示
故人今夕就當同
寒疾難那不可風
應笑獨違詩客興
無由更假薬王功
竈中丹火仙縁遠
爐上黄灰心事空
回望諸天稍欲雪
愁雲惨淡隔琳宮

 諸子と同(とも)に僧院に集ふの約有り。予、病ひにて果さず、賦して以て寄せ示す。
故人(旧友)今夕、就くこと當に同じくすべきを、
寒疾、難くして、風(歌)すべからざるを那(いか)んせん。
應に笑ふべし、獨り詩客の興と違へるを。
更に薬王の功を假(か)らんも由なし。
竈中の丹火、仙縁遠く
爐上の黄灰、心事空し。
諸天(天上界)を回望すれば、稍(やや)雪ならんと欲す。
愁雲惨淡として、琳宮を隔てり。
 

 寒林初月分韵
高林望少逈寒宵
繊月依微穿數條
豈憶百花揺落後
妍娟別自有含嬌

 寒林の初月。分韵。
高林、望は少(わず)かなり、逈(はる)かなる寒宵、
繊月、依微たり、數條(枝)を穿(つらぬ)く。
豈に憶はんや、百花揺落の後、
妍娟として、別に自ら嬌の含む有るを。


 出塞望軍営
単身奉使向邉陲
近聴天兵殊遠移
出塞幾凌胡地險
度遼初望漢家旗
風雲夜動分龍虎
金皷令厳森幕帷
張翼車営自堪辨
休云大将是阿誰

 塞を出でて軍営を望む。(※三国志詠史)
単身、使を奉じて邉陲に向ふ。
近く聴く、天兵の殊に遠く移れるを。
塞を出でて幾たびか凌ぐ胡地の險、
遼(遼水)を度りて初めて望む漢家の旗。
風雲、夜に動きて龍虎を分け、
金鼓(陣太鼓)、幕帷をして厳森(森厳)たらしむ。
張翼の車営、自ら辨ずるに堪へたり、
云ふを休(や)めよ、大将は是れ阿誰(だれ)ならんかと。


 奉和東陽先生答雪中 恩賜章之作(具詩云無由隺氅学神仙)
飛来玉屑色堪留
和去瑶篇光止浮
隺氅神仙別休羨
兔園風景坐相酬

 東陽先生(守屋東陽)の「雪中、恩賜の章(詩)に答ふ」の作に和し奉る。具詩に云ふ「隺氅(衣)の神仙を学ぶに由なし」と。
飛来する玉屑(雪:藩主の詩)、色、留めるに堪へ、
(東陽が)和せる瑶篇も、光、止めて浮べり。※去:助辞
隺氅(衣)の神仙、別けて羨やむを休(や)めよ。
兔園(宮廷園)の風景、坐ろに相ひ酬ゆ。


 雪後暖甚分韻
寒軽雪後下江津
日暖流澌自促春
不惜凝花謝枝去
含香已有早梅新

 雪後、暖甚し。分韻。
寒、雪後に軽く、江津を下れば、
日、暖くして流れ澌(尽)く、自ら春を促せり。
惜まず、凝れし花の、枝を謝して去れるを。
香を含みて已に早梅の新しき有り。


 苐山図
華陽洞裡白雲隈
攀去三峰次第廻
沸湧澹泉迎客處
有無傳響讀書臺
松籠壇宇千株茂
山駐仙蹤萬壽開
行拂断碑窺古篆
六朝名字没莓苔

 [第]山(※不詳)の図
華陽(岐阜)の洞裡、白雲の隈、
三峰を攀ぢ去りて次第に廻る。
沸湧する澹泉は、客を迎ふる處、
有無を傳へ響かす、讀書の臺。
松は壇宇に籠めて、千株茂り、
山は仙蹤を駐めて、萬壽開く。
行きて断碑を拂ひて、古篆(篆書)を窺へば、
六朝の名字は、莓苔に没せり。


 山中弾琴分得韻寒
清高眞耐賞
一曲倚層巒
已避王門請
何妨聖[主]歓(還催帝者歓)
意随松石遠
響遏水雲寒
物景渾相應
知音自不難

 山中に琴を弾く。分けて韻「寒」を得る。
清高、眞に賞するに耐ふ。
一曲、層巒に倚る。
已にして王門の請ひを避くも、
何ぞ妨げん聖主の歓ぶを。(還た催す帝者の歓を。)
意は松石遠くに随ひて、
響きは水雲の寒きを遏(とど)む。※遏雲の曲
物景、渾(すべ)て相ひ應(まさ)に、
知音(理解者)、自ら難からざるべし。


 謝人之恵生魚歌
多謝 子之嘉貺■欲報難
𩀱々投[去愈]碧琅玕
開鏡活潑紫錦鱗
錦鱗相射白銀盤
盤上忽訝神仙術
坐向賓筵下釣竿
蓄得未擬呉人興
窺来先憐蒙吏歓
[舛]斗豈待決西江
一盆還作縦壑看
[鯈]然相見情可知
暫時呴沫旦應安
此時不恐預旦網
人間無那庖人狂
欺去鸞刀斯須響
更懸銀絲色如霜
無道腹中蔵匕首
轉嘉得君相思長
無道嘗葬獨醒人
即今将供酒客膓
下筯勧杯興(何・復)酣
一欲報君未成章
只願長結魚水好
游詠相得且莫忘

 人の生魚を恵むに謝す歌。
多謝す。子の嘉貺(贈品)、報ゐんと欲するも難し。
雙々、投去す、碧琅玕に愈(まさ)る。
開き鏡(てら)す、活潑たる紫錦の鱗、
錦鱗、相ひ射す、白銀の盤に。
盤上、忽ち訝る、神仙の術かと、
坐して賓筵に向ひて釣竿を下す。
蓄(やしな)ひ得る、未だ呉人の興(※不詳)に擬へず、
窺ひ来ては先づ憐む、蒙吏(荘子)の歓。
舛斗、豈に西江を決するを待たんや、(「涸轍之鮒」の故事)
一盆、還(ま)た縦壑を作すを看る。
[倏]然として相ひ見る、情知るべし。
暫時、呴沫(水を吐く)す、且く應に安ずるべし。
此の時恐れず、旦網を預けるを。
人間、庖人の狂をいかんともするなし
欺き去る鸞刀、斯須(しばら)く響く。
更に銀絲を懸く、色、霜の如し。
無道(無情)、腹中に匕首は蔵(かくれ)る。
轉(うた)た嘉す、君が相思の長きを得しを。
無道にして、葬を嘗(な)むは、獨り醒める人、
即ち今、将に酒客の膓に供さんとす。
筯(箸)を下し杯を勧む、興の復た酣なる。
一に君に報ぜんと欲せしも未だ(詩)章を成さず。
只だ願ふは、長しなへに魚水の好(よし)みを結ばんこと。
游詠、相ひ得る、且つ忘る莫れ。


 歳杪逢北越人
殘年嗟尓病吟微
空向北風情幾違
自是南方春正近
寛装暫及塞鴻帰

 歳杪、北越の人に逢ふ。
殘年、尓(なんじ)の病吟の微かなるを嗟く。
空しく北風に向ひて情、幾らか違はん。
是れより南方、春まさに近ければ、
暫らく装を寛うして、塞鴻の帰るに及ばん。


 臘中立春日奉呈東陽先生
東[璧]千年業
西河一日風
失明非我過
[𡙸]鑑那天衷
語發左丘憤
珠懐罔象聰
已揚家宝重
殊見国華隆
恩早迎珎席
詩将比彤弓
綺筵[添]楚醴
白雪賞[齊]宮
揮筆花逾晃
飛杯寒旦空
陽春皮裡動
淑氣臘中冲
黄鳥時求友
青■侍退公
優游忘老至
狂簡育才雄
紛兮蘭之室
和如絲[与]桐
逢斯韶光節
好徴温陶工


 臘中(旧暦12月中)の立春日、東陽先生(守屋東陽)に奉呈す。
東璧、千年の業なるも、
西河、一日の風なり。
明を失せるは我が過ちに非ざるも、
鑑を[𡙸(奪)]ふ、天衷を那(いか)んせん。(※意味不詳)
語を發すれば、左丘(左丘明)の憤、(※『春秋』の筆誅)
珠を懐けば、罔象の聰。(※『荘子』象罔の探珠能力)
已に家宝の重きは揚がりて、
殊に国華の隆まるを見る。
恩、早くも珎席を迎へ、
詩、将に彤弓(とうきゅう)に比せんとす。(※太陽を射落した弓)
綺筵、楚醴(うま酒)を添へ、
白雪、[齊(齋)]宮を賞す。(※意味不詳)
筆を揮へば花、逾(いよい)よ晃かにして、
杯を飛ばす、寒旦の空。
陽春、皮裡(心)動かし、
淑氣、臘中に冲(ちゅう)す。
黄鳥、時に友を求め、
青■、退公(東陽先生?)に侍る
優游、老の至るを忘れ、
狂簡(豪胆)、才の雄たるを育む。
紛たり、蘭の室(※芝蘭之室:善い感化)、
和することは絲と桐(※琴)の如し。
逢ふは斯れ、韶光の節(※臘中立春)。
好き徴(しるし)、陶工(※薫陶の士)を温めん。


詩凡百十首、文三首※。七律四十五、七絶三十九、七古三首、五絶三首、五律十九、排律一首。

※文三首:「智洲上人を祭る文」、「長古卿に與ふ」、「古卿に重ぬ」



【C】自筆詩稿【東皐集三】  PDF(8mb)

東皐集三 天明二年春(※1782年 河合東皐24 歳)〜



東皐集巻三(天明壬寅)
                河正良子譲稿

 春初登高
和烟麗日映春風
極目登高殊鬱葱
杯裡霞従天際動
江M雪點艸頭融
俯聞啼鳥遷喬木
平視帰[鳫]連遠空
賦就此楼知幾尺
凌雲氣象醉逾雄

 春の初め、高きに登る。
烟に和す麗日、春風に映え、
目を極むる登高、殊に鬱葱たり。
杯裡、霞は従ふ、天際の動くに、
江M、雪は點ず、艸頭に融けたるに。
俯きて啼鳥の喬木に遷るを聞き、
平らかに帰[鴈]の遠空に連なるを視る。
(詩を)賦するに就いて此の楼、幾尺たるかを知らん、
凌雲の氣象、醉ふて逾(いよ)よ雄たり。


 逢人従象潟還
象潟東連渤澥流
奇蹤為説入曽遊
羽列縹渺三千里
鳥海参差八十洲
風詠思人迷佛寺
桃花隔岸送漁舟
自憐勝具無由假
斯夕勝情依爾幽

 象潟より還る人に逢ふ。
象潟、東のかた渤澥(渤海国)の流れに連り
奇蹤、説くならく、(※芭蕉の)曽遊に入るを。
羽列(※奥羽の列なり)は縹渺たらん、三千里、
鳥海に参差たらん、八十洲(※八十島:多くの島々)。
風詠、人(※芭蕉)を思ひて佛寺(干満珠寺)に迷ひ、
桃花、岸を隔てて漁舟を送る。
自ら憐む、勝具(健脚)の假(借)るる由なきを、
斯かる夕の勝情、爾(なんじ)の幽に依らん。
       (※22年後の文化元年の象潟地震で景勝は消滅する。)

 春江泛舟三首
城南通碧水
橋下放軽舟
灔々春波穏
遅々午日浮
纔過翠楊岸
更入緑蘋洲
孤棹何邉駐
烟花處々幽

青甸今朝雨
幾開堤上春
放歌皆酒客
拾翠是佳人
珠訝淵中晃
花渾水面新
此遊心不繋
至處鳥魚親

闊達江湖興
誰識世間情
酒有滄洲趣
舟疑天上乎
丹霞醉顔暖
芳艸[燄]烟軽
駘蕩将催睡
白鴎来有驚

 春江に舟を泛ぶ。三首。
城南、碧水通じ、
橋下、軽舟を放つ。
灔々として、春波は穏かに、
遅々として午日に浮べり。
纔かに過ぐ、翠楊の岸、
更に入る、緑蘋の洲。
孤棹、何れの邉(ほとり)にか駐めん、
烟花、處々、幽たり。

青甸(※郊外)、今朝の雨、
幾んど開く、堤上の春。
放歌するは皆な酒客、
翠を拾ふは是れ佳人。
珠かと訝かる、淵中に晃かなる、
花は、渾て水面に新らし。
此の遊、心を繋がず、
至る處、鳥魚と親しむ。

闊達たり、江湖の興、
誰か識らん、世間の情を。
酒有り、滄洲(※田舎)の趣き。
舟にしあれば天上かと疑ふ。
丹霞(夕焼け空)、醉顔、暖にして
芳艸、烟軽に焔ゆ。
駘蕩たり、将に睡り催さんとすれば、
白鴎の来りて驚かされる有り。


 源子清二酉亭集壁間挂物子真蹟分韻
壁間驚見起眞龍
高挂彩毫雲自従
今日此亭辨神物
轉令髦士仰文宗

 源子清(※不詳)の二酉亭の集り。「壁間の挂物は子の真蹟たり」の分韻。
壁間、驚き見る眞の龍の起きるかと、
高く挂げる彩毫、雲、自従(※自在?)たり。
今日、此の亭、神物を辨ず。
轉(うた)た髦士をして文宗(※不詳)を仰がしむ。


 春初聞東都田先生擧令愛奉寄(時大[孩]人尚[徤])
庭階艸樹報陽和
佳色幾堪催郢歌
但道春寒花氣薄
[已]看蘭葉嫩香多
門楣慶事須先兆
堂背歓声且若何
料識手分甘脆満
融々抱去日婆娑

 春の初めに東都の田先生の令愛(令嬢)を擧ぐるを聞き、奉り寄す(時に大[孩]人(※不詳)、尚ほ健かたり。)
庭階の艸樹、陽和を報ず。
佳色、幾んど郢歌(※俗曲)を催ほすに堪へたり。
但だ道(い)ふ、春寒、花氣は薄けれど、
[已]に看る、蘭葉、嫩香の多きを。
門楣の慶事は、須らく先兆たるべし。
堂背の歓声、且(しばら)く若何(いか)んせん。
料り識る、手分けして、甘脆(ご馳走)を満たし、
融々(※愉げに)抱き去ること、日(ひび)に婆娑たらんを。


 春郊晩帰分得三肴
[探]春醉帰客
携手歩西郊
村落烟看暮
青黄艸自交
鐘傳餘靄外
鳥定古林巣
相顧濃繊月
工懸芳樹梢

 春郊、晩に帰る。「(平水韻)三肴」を分け得る。
春を[探]ねる醉帰の客、
手を携へて西郊を歩む。
村落の烟は暮に看て、
青黄の艸は自ら交りぬ。
鐘は傳ふ、餘靄の外、
鳥は定む、古林の巣。
相ひ顧りみる、濃繊(こまや)かなる月の、
工みに芳樹の梢に懸れるを。


 鶯暁分韻
夢裡鶯呼殘暁[ス]
聞来枕畔尚幢々
上頭漸待朝暉至
影自聯翩映紙窓

 鶯暁。分韻。
夢裡、鶯は呼ばふ、殘りの暁[紅]に、
聞き来たる枕畔、尚ほ幢々(チラチラ)たり。
上頭(※枕辺)、漸く待つ、朝暉の至るを、
(鳥)影の自ら聯翩として、紙窓に映ず。


 酒家花分韵
青帘青眼幾人迎
芳樹芳樽相共清
今日帰程寧可問
千金不惜々花情

 酒家の花。分韵。
青帘(酒旗)青眼、幾人か迎ふ。
芳樹芳樽、相ひ共に清し。
今日の帰程、寧ぞ問ふべけんや。
千金は惜まず、惜しむは花情なり。


 又
當壚春色共粧成
相競勧杯多少情
紅女若花々若雪
紛々能解幾人醒

 又
當壚(※酌婦)と春色と共に粧を成し、
相ひ競ひて杯を勧む、多少の(ふんだんな)情。
紅女は花の若く、花は雪の若く、
紛々として能く解すは、幾人醒めたる。


 遥題大庾嶺
崢[エ]試逐九齢蹤
梅嶺遥探春色濃
縹渺初疑白雲満
繽紛漸送香風封   鼇頭:韶
幾移少婦芬芳意
却憶仙郎氷雪容
回望孤関月将白
好留花底夢中逢

 遥かに大庾嶺(※梅嶺)に題す。
崢[エ]、試みに逐ふ、九齢(張九齢)の蹤。
梅嶺、遥かに探ぬ、春色の濃きを。
縹渺として、初めて疑ふ、白雲満つるを
繽紛として漸く送る、香(韶?)風の封ぜらるを。   鼇頭:韶
幾たび移るや、少婦、芬芳の意、
却って憶ふ、仙郎、氷雪の容。
孤関を回望すれば、月将に白まんとす。
好し、花を留まりて夢中に逢はん。


 遥題巫山
天半崢エ勢若争
峰巒十二自分明
三声月落玄猿樹
千里泣流白帝城
巫峡巫山同古昔
為雲為雨変陰晴
當年神女今何在
無意重牽作賦生

 遥かに巫山に題す。
天半の崢エたる、勢ひ、争ふ若く、
峰巒十二、自ら分明たり。(※巫山十二峰)
三声、月落つ、玄猿の樹、 (※無名氏「巴東三峡巫峡長 猿鳴三声涙沾裳」)
千里、泣流す、白帝城。 (※李白「早発白帝城:千里江陵一日還 兩岸猿聲啼不住」)
巫峡、巫山、古昔は同じうし、
雲を為し雨を為し、陰晴を変ず。
當年の神女、今、何在(いづこ)、(※巫山雲雨の故事)
意無く重ねて牽いて賦し作りて生ず。


 夕陽聞鶯分韻
藪鶯以■、夕陽孤
■[向]烟霞殘處呼
澗道紅花看暝■
還追返照上丘隈

 夕陽、鶯を聞く。分韻。
藪鶯以■夕陽孤なり。
■[向]烟霞、殘處に呼ばふ。
澗道の紅花、看暝■
還た返照を追ひて丘隈に上る。


 佛滅日送僧分韵
回錫嗟師常住難
何勝佛滅日将殘
鳥声亦自兼生別
啼送飛花雙樹端

 佛滅の日、僧を送る。分韵。
錫を回らせて、師の常住難きを嗟く。
何ぞ佛滅に勝へて、日将に殘らんとするや。
鳥声また自ら生別を兼ね、
飛花を啼き送る、雙樹(※沙羅雙樹)の端


 雨中莽蒼亭集逢晩晴同賦得十四鹽
(亭裡乗晴・雨歇高亭)試捲簾
春光莽蒼轉堪添
雲披江上舟偏小
風度花叢錦尚沾
數曲隔楊誰弄笛
丈人荷蕢或腰鎌
三飱不用遥移歩
萬象回頭掌裡瞻 (時隣家吹笛)

 雨中、莽蒼亭の集、晩晴に逢ふ。同に賦し「十四鹽」を得。
(亭裡、晴に乗じ・雨歇む高亭)試しに簾を捲けば、
春光、莽蒼にして、轉た添ふるに堪ふ。
雲、江上に披けば、舟は偏へに小さく、
風、花叢に度(わた)れば、錦は沾を尚(かさ)ぬ。
數曲、楊を隔てて誰ぞ笛を弄ぶ。
「丈人(老人)蕢(簣もっこ)を荷ひ、或は鎌を腰にす。
 三飱(三食)を用ゐず、遥かに歩を移す」(※不詳)
萬象を回頭すれば、掌裡に瞻る。 (時に隣家、笛を吹く)


 對雨惜花分韻
因惜落花侵雨看
紛々相撲幾枝殘
明朝無奈新晴好
争得春光同昨歓

 對雨惜花分韻
落花を惜むに因りて、雨を侵して看る
紛々として相ひ撲つ、幾枝か殘す。
明朝、新晴の好きもいかんせん。
争でか春光の昨歓と同じうするを得んや。


 古関花分韻
古関何處[今]荒涼
花艸年々遍路[脩]
昔日為留征馬地
風前向客尚低昴

 古関の花。分韻。
古関は何處、[今]荒涼たり。
花艸年々、遍ねく路は脩(なが)し。
昔日は、征馬を留める地と為す。
風前、客に向ひて(※話すに)尚ほ低昴す。


 寺門落花
香臺重過落花餘
流水門前春半虚
(誰道・逐是)色空看可[了]
山僧欲拂尚躊躇

 寺門落花。
香臺、重ねて過ぐ、落花の餘、
流水門前、春半ばにして虚(むな)し。
(誰か道ふ、色空(※現世)看れば[了]すべしと。・「是色・是空」を逐ふて看て[了]すべきも、)
山僧、拂はんと欲して尚ほ躊躇す。


 春夜艸堂勧酒
偏喜君忘杖履労
春風乗月問東皐
清談元有佳肴在
休笑頻予勧濁醪

 春夜艸堂、酒を勧む。
偏へに喜ぶ、君が杖履(※外出・旅)の労を忘るるを、
春風、月に乗じて東皐を問はる。
清談、元より佳肴の在る有り、
笑ふを休めよ、頻りに予の濁醪を勧むるを。


 同賦花下琴興用前韵
花下清音試一操
満園佳色思陶々
芬芳似解琴中趣
為雪風前片々高

 同じく。花下の琴興、前韵を用ゐて賦す。
花下の清音、一操を試す。
満園の佳色、思ひ陶々たり。
芬芳は琴中の趣を解する似(ごと)し。
(※花弁)雪と為す風前、片々と高し。


 観蒙元敗走圖
風雲思昔感天人
防虜功勲筑石濱
遥見楼舩来壓海
忽驚波浪変揚塵
吼鯨飆起軍看[没]
奔馬濤收秋復新
豈啻雄圖永安日
于今外國恐威神

 蒙元の敗走図を観る。
風雲、昔を思ひ、天人に感ず。
防虜(防人)の功勲、筑石(筑紫)の濱。
遥に見る楼舩、海を壓して来たるを、
忽ち波浪の変じて塵を揚るに驚く。
鯨吼え飆起き、軍の[没]するを看、
奔馬、濤收まりて、秋復た新らし。
豈に啻に雄圖、安き日を永くするのみならんや、
今に(今もって)外國、威神を恐る。


 予童齓友高生入釋氏之徒自出家不相見也十餘年今茲會帰省乃翁一夕迎艸堂話舊。
錫飛雲裡故山平
帰省親闈弟與兄
堂上豈唯懐橘[切]
衣中堪捧繋珠明
論心夜月窓稍白
聞法春燈花幾生
桑下[好]君許三宿
逢迎重叙十年情

 予の童齓(幼少)の友、高生。釋氏の徒(仏門)に入るとて自ら出家し相ひ見ざるや十餘年。今茲、乃翁(父上)を帰省するに會ひ、一夕艸堂に迎へ て舊を話す。
錫を飛ばす雲裡、故山は平らかにして、
帰りて親闈(両親)を省みる、弟と兄と。
堂上、豈に唯に橘[切]を懐にするのみならんや、(※陸績の故事「懐橘遺親」)
衣中、捧ぐるに堪ふ、繋珠の明。(※蜜柑ではなく数珠を懐にしている)
心を論ずる夜月、窓は稍や白く、
法を聞く春燈、花(※灯花)幾たびか生ず。
桑下(※桑門:仏門の下) [好]し君、三宿を許す。
逢ひ迎ひて重ねて叙さん、十年の情。


 自逢教公未幾予将南遊公亦西征不日云不勝忽卒臨別賦而贈
蜉蝣聚散一紛綸
飛錫懸[机]道各新
偶是南方得珠返
還知北斗望君頻
山頭石鏡心應照
海上鳬鴎遊欲親
只去勝因如不盡
西尋楽国問芳春

 教公(※菩提寺住職)に逢ひてより、未だ幾くもならざるに予、将に南遊せんとす。公も亦た西征すること不日と云ふ。忽卒に勝へず、別れに臨みて 賦して贈る。
蜉蝣の聚散、一に紛綸(※多く入り乱れる)、
飛錫、懸[机]、道は各れ新たなり。
偶ま是れ南方なれば、珠を返すを得、(※不詳)
還た北斗を知れば、君を望むこと頻りならん。
山頭の石鏡、心を應に照すべく、
海上の鳬鴎、遊びて親しまんと欲す。
只だ勝因(善因)を去って、盡きざる如く、
西のかた楽国を尋ねて、芳春を問はん。


 題峴山
経過峴山多所思
風烟[懇]矣晋年時
上留遺愛賢臣廟
下有佯狂醉客池
依舊登臨猶若此
開筵應接復迎誰
垂々巖溜青苔冷
堕涙空傳一片碑

 峴山に題す。
峴山経過して思ふ所多し。
風烟は[懇]かな、晋年の時。 (※晋代の長官、羊祜が好んで登った)
上には遺愛の賢臣の廟を留め、(※羊祜の廟)
下には佯狂醉客の池有り。
舊に依りて登臨すれば猶ほ此の若し。
開筵應接、復た誰をか迎へん。
垂々、巖は青苔の冷たきを溜め、
涙堕ちて空しく傳ふ、一片の碑。(※羊祜の堕涙碑)


 四月八日上寺閣
花籠灌止雨痕鮮
[恵]日新生四月天
自是法筵依誕節
且攀高閣弄晴烟
薫風時繞栴檀馥
紺園殊添紫翠偏
奉去佛心何所似
青々浴出宝池蓮

 四月八日、寺閣に上る。
(※花祭りの)花籠、灌ぎ止む、雨痕鮮らし。
恵日、新たに生ず、四月の天。
是れより法筵は誕節に依り、
且つ高閣に攀りて晴烟を弄す。
薫風、時に栴檀を繞りて馥(かんば)しく、
紺園(※佛寺)、殊に紫翠を添へて偏る。
佛心を奉じ去るは何の所似ぞ、
青々と浴み出たる、宝池の蓮。


 螢火篇送友人
行看螢火乱風涼
熠燿争流宇水傍
自是明珠暗[探]得
憐君好事満詩嚢

 螢火の篇。友人※に送る。 ※『東皐集二』で宇治に隠棲した友人へ送ったものか。
行き看る螢火、乱風に涼し。
熠燿(ゆうよう:耀き)と争ひ流る、宇水(※宇治)の傍。
是の明珠を暗に探り得てより、
君を憐まん、好事、詩嚢に満つるを。


 奉哭東陽先生五首
帝卿何處望君迷
空望白雲荒野西
薤露千人皆涕涙
温風四月凜悲悽
前期豈憶中林約
今日還陪廣柳躋
回首花丘全失色
血痕只有子規啼
 (先生嘗携門生良等遊赤水花丘之約而不果。花丘即営兆地也。)

 東陽先生※を哭し奉る。五首。※守屋東陽1782 天明2年4月14日歿51才。
帝卿(※仙人栖処)何處ぞ、君を望みて迷ひ、
空しく白雲を望む、荒野の西。
薤露(※無常譬喩)、千人、皆な涕涙、
温風の四月に、凜たる悲悽。
前に期す、豈に憶はんや、中林の約(約束)を、
今日、還た陪す、廣き柳躋(柩車)に。
回首せる花丘、全く色を失ひ、
血痕、只だ子規の啼く有り。
 (先生、嘗て門生の良(※東皐)等を携へて赤水・花丘に遊ぶの約(※あり)而して果さず。花丘は即ち兆(兆域:墓)を営む地なり。)


霊丘物色一茫々
濺涕徘徊幽澗傍
蘭艸縦知易先萎
疾風何科忽枯傷
紫雲空護真人気
赤水長沈明月光
望断九灘寒曲々
今来只自似愁腸
 (花丘一云紫雲山。赤水古有九灘名)

霊丘の物色、一に茫々、
涕を濺ぎて徘徊す、幽澗の傍(ほと)り。
蘭艸は縦(たと)ひ先に萎み易きと知るとも、
疾風、何ぞ科らん、忽ち枯傷せんとは。
紫雲、空しく護る、真人(仙人)の気、
赤水、長へに沈む、明月の光。
九灘を望断(望遠)すれば、寒きこと曲々。
今来、只だ自ら愁腸に似たり。
 (花丘、一に紫雲山(※大垣市求浄庵)と云ふ。赤水、古へ九灘の名有り。)


幸有通家前好存
刺名嘗許入龍門
常陪宴集花兼月
[併]廢風流客與樽
一夕精魂招不返
舊蹊桃李惨無言
自今小子将何述
泣抱盟書添血痕

幸ひに通家有りて、前好を存し、
名を刺し嘗て許す、龍門(※先生の門)に入るを。
常に宴集に陪して、花と月とを兼ね、
併せて風流を廢す、客と樽と。
一夕、精魂、招けども返らず、
舊蹊の桃李、惨として言なし。
自今、小子、将(は)た何をか述べん、
泣いて盟書を抱き、血痕を添へん。


知元此子在蓬莱
暫託詞林試異才
灼爍三花筆空駐
逍遥一夜夢終催
羅浮清影初望悟
鄭圃真人老不回
吹落天風如有意
冷然重復御君来

知んぬ、元と此の子、蓬莱に在りて、
暫く詞林に託して異才を試さるを。
灼爍三花(※不詳)、筆を空しく駐め
逍遥一夜、夢は終ひに催かる。
羅浮の清影※、初望にて悟るも、   ※梅の精の仙女。
鄭圃の真人※、老いて回らせず。   ※列子御風、飛行の故事。
吹き落す天風は、意有るが如し。
冷然と重復す、御君来たると。


高科嘗兼言偃同
今来齊魯孰争雄
已關東璧千秋色
忽殞西河一日風
風化堪観美章序
寵恩殊覚魏文宮
近看賢主傷師切
倍憶喪明夫子功
 (先生作序編美陽選未脱藁)

高科(※高弟)嘗て兼ぬ、言偃(※子游)と同じうするを、
今来、齊魯、孰れか雄を争はん。
已に東璧に關す、千秋の色、
忽ち西河に殞つ、一日の風。
風化するも、観るに堪へたり、美章の序※、
寵恩、殊に覚ゆ、魏文宮
近く賢主を看るに、師を傷むこと切にして、
倍(ますま)す明を喪ふを憶ふ、夫子の功。
 (先生、序を作して編める『美陽選※』未だ脱藁せず。)  ※大垣藩臣の漢詩アンソロジー。未刊。


 午日筵
榴花開處不蕭條
佳宴新晴午日遥
解道五絲能續命
一杯先覚百憂消

 午日の筵。
榴花、開く處、蕭條ならず、
佳宴の新晴、午日、遥かなり。
解道五絲、能く命を續ぎ、
一杯、先づ覚ゆ、百憂の消ゆるを。


 與田子信同将之東都賦此送之
遠遊千里附騰鴻
並指天涯海驛東
逸翮何妨従燕雀
雙飛元自有雌雄
尋芳杜若聊堪贈
和雪芙蓉安競工
稍是連行擬兄弟
恐難微質撃高風

 田子信(※不詳)と同に将に東都へ之かんとす。此を賦して之に送る。
遠遊千里、騰鴻(※藩主か)に附し、
並んで天涯を指す、海驛の東。
逸翮(飛揚)、何ぞ妨げん、燕雀(※小人物)に従ふも、
雙飛すれば、元とより自ら雌雄有らん。
芳しき杜若を尋ねれば、聊か贈るに堪へん、
雪の芙蓉(※富士山)に和すれば、安んぞ工を競はん。
稍や是れ連行して兄弟に擬すも、
微質(※自分?)の高風を撃ち難きを恐る。


 艸堂集分賦得芙蓉峰韻天字留別諸子
三峰削出曙光天
雪色高晴繞紫烟
[仰]止此時何以答
試披諸彦郢中篇

 艸堂集の分賦。芙蓉峰の韻、天字を得て諸子と留別す。
三峰(※富士山)削り出す、曙光の天、
雪色、高晴、紫烟を繞らす。
仰ぎ止む此の時、何を以て答へん。
試みに諸彦の郢中篇(※高雅な詩)を披かん。


 于越川
望中一千里
渺々白砂洲
未分天與水
安辨馬兼牛

 于越川(※不詳)
望中、一千里、
渺々、白砂の洲。
未だ天と水とを分たず、
安んぞ、馬の牛を兼ぬることを辨ぜん。


 三河道中二首
三河行不盡
日去古松間
郡元開碧海
人但見青山
燕子花飛後
中郎橋更閑
自怪耽蹤跡
徒堪傷旅顔

 三河道中。二首。
三河、行けども盡きず。
日は去る、古松の間。
郡は元と碧海を開き、
人は但だ青山を見る。
燕子の花(かきつばた)、飛ぶ後、
中郎の橋(※不詳)、更に閑たり。
自ら怪しむ蹤跡に耽けるを、
徒らに堪ふは、旅に傷める顔。

古跡停鞭處
新豊賖酒看
行臨松葉水
堪憶竹皮冠
比屋人相楽
大風歌自殘
鳳来今日瑞
近起彩雲端

古跡、鞭を停む處、
新豊、酒を賖りて看る。
行きて臨む、松葉の水、(※不詳)
憶ふに堪ふ、竹皮の冠。(※不詳)
比屋(家並)に、人は相ひ楽しみ、
大風の歌、自ら殘れり。
鳳は来る、今日の瑞(瑞兆)、
近く起る、彩雲の端に。


 新江眺望(此日風波穏)
海門關上進蘭橈
帆影軽浮千里潮
雲裡芙蓉色難辨
舟中詩賦思猶遥
蒼蛇護岸新江走
白浪涵天遠海驕
枚發従来非敢擬
穏波偏喜去飄々

 新江の眺望。(此の日、風波穏かなり。)
海門の關上、蘭橈(※舟の櫂)を進む。
帆影、軽やかに浮く、千里の潮。
雲裡の芙蓉は、色、辨じ難く、
舟中の詩賦は、思ひ猶ほ遥かなり。
蒼蛇(※堰堤)、岸を護りて、新江を走り、
白浪、天を涵して、遠海、驕たり。
枚發、従来、敢へて擬せんには非ず、
穏波、偏へに喜ぶ、飄々と去るを。




【D】自筆詩稿【東皐集】寛政甲寅(※1794寛政6年)春 (河合東皐36歳)

現在翻字・訓読中。


【E】自筆詩稿【文政庚寅集】(※ 1829文政13年)元旦〜 (河合東皐71歳)

現在翻字・訓読中。








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