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神田柳溪  かんだ りゅうけい (1796 寛政8年 〜 1851 嘉永4年)  名は充、字は實甫。号を柳溪とし居を南宮山房と称す。

 不破郡岩手村(現垂井町)の人。中村真一郎「頼山陽とその時代」のなかで、身元不詳のまま奥床しき“清貧・隠遁の人物”として取上げられてゐるが、 当時既に美濃の国内では“東”の藤城に並ぶ“西”の柳溪として、頼山陽はじめ当代の文壇から詩的才能を絶賛されてゐた民間詩人である。刀圭を志し少壮時代より東西に遊学、 山陽塾へは客員として身を寄せた。29歳、二児を抱へて妻ともに帰郷、開業して以後は岩手村の旗本、竹中家の侍医として故郷に隠れた。星巌、藤城、江馬細香ら「白鴎詩社」の人々とも交流、 庶民とならんだ視線は、自ら背負ひたる眇のハンディキャップと共に、蘭学の齎した“合理的ヒューマニズム”の所産によるものと思はれる。その影響を一身に受けて撫育された甥が、 後に啓蒙思想家として明治初期に活躍した高級官僚、神田孝平(1830-1898)である。嘉永4年病没、享年55歳。塋域は垂井町祥光寺。著書に『南宮詩鈔』(嘉永3年)のほか、 医方面の著書として『蘭学実験』(弘化3年)三巻がある。 また先師山陽が自分のために揮毫してくれた書と書簡を摸刻したものが『頼山陽實甫帖』として神田孝平によって明治12年に刊行されてゐる。(中嶋康博)


『南宮詩鈔』

なんぐう ししょう

南宮詩鈔  南宮詩鈔  南宮詩鈔

1850年(嘉永3年)5月 瑞香堂 上梓 (左:乾坤2分冊版、右:合冊版)

版元  江戸:須原屋茂兵衛  / 大坂:秋田屋太右衛門 / 京:橘屋治兵衛  /  京:若山屋茂助

2,2,17,23丁; 22.4×15.8cm


扉
見返し(該書は「上内[上有知こうずち]村瀬」とあり、村瀬藤城もしくは秋水の旧蔵か)

南宮山房圖

南宮山房圖(高橋杏村画)

序詩:題南宮山房(梁川星巌)

序文:南宮山房記 (牧百峰)

上巻

1.還郷三首
2.園居雜咏三首
3.偶成四首
4.大水行
5.山房雜詩效東坡卜居體八首 鈔三
6.遊山北諸溪二首
7.午睡
8.陸士衡
9.陶淵明
10.梅花絶句二首
11.上叡山吊新田公
12.題林良水禽横軸
13.不破古關歌
14.太平山石墨歌
15.村居雜事三首
16.題柏純甫西山爽氣樓
17.酒醒
18.冬初同梁公圖諸君陪山陽翁遊糺林分謝茂秦老樹得秋多句爲韻得々字
19.贈内
20.牛車行過逢坂作
21.大風渡湖時携一端研欲買不果遂戯作歌
22.山陽翁日本外史落成賦五言一篇奉呈時故執政桑名樂翁公遣使求其書故及之
23.吾里二月朔爲社賽神親戚故舊互相邀盡歡歳々如此士錦 有詩社之約而久不來故作此爲寄
24.春日漫興二首
25.雨中過永明寺
26.遊成菩提院憶六如上人 作
27.次山陽翁見示韻
28.明戴曼公書歸※來巻
29.隣村觸目
30.春日田家
31.梅雨
32.夏日遊大瀧川
33.曝書
34.侍山陽翁宴賦此奉呈
35.九日登菩提山
36.送田淇夫服[門+癸]従學林學士邸
37.江州詞十二首
38.過近島藤井氏觀其近傍地勢有作
39.宿水滸書院分韻
40.嵐山三首
41.題願宗寺竹亭壁
42.冬夜讀書用菅茶山韻
43.除夜

下巻

44.春日襍詩三首
45.夏淺勝春
46.雨後獨歩
47.江山煙雨圖
48.題雲屋師房
49.壬辰秋旱
50.秋夜泛舟廣洲
51.秋日同信侯遊東山
52.九日同梁公圖牧信侯岡周甫 飲鴨河酒樓晩問山陽翁病時公圖將赴江都
九日、梁公圖(梁川星巌)牧信侯(牧百峰)岡周甫(岡田鴨里)と同に鴨河酒樓に飲み、晩に山陽翁の病を問ふ、時に公圖将に江都に赴かんとす。

落木蕭蕭水急流 落木蕭蕭、水急流
滿城風雨共投樓 満城風雨、共に楼に投ず
長卿抱病常高臥 長卿(司馬相如)は病を抱き常に高臥
王粲依人欲遠遊 王粲は人に依りて遠遊せんと欲す
松菊園荒三徑晩 松菊の園は荒れる、三径の晩
關山雁度八州秋 関山に雁は渡る、(関東)八州の秋
酒醒愈覺吟場冷 酒は醒め愈よ覚ゆ、吟場の冷ゆるを
獨立蒼茫不耐愁 独り立ちて蒼茫、愁ひに耐へず

【頭注】僕再入京師山陽翁墓木已拱 老兄病不能来 僕眞乃獨立蒼茫(僕[村瀬藤城]再び京に入れば師山陽翁の墓、木すでに拱く[ほど成長し時が経った]  老兄[神田柳溪]病みて来る能はず、僕まことに乃ち独り立ちて蒼茫たり)
    後云 二聯錯ン 照應奇創(後藤松陰云ふ 二聯錯綜、照すにまさに奇創なるべし[司馬相如に擬したを云ったものか])
    牧云 時出腕力一新人目(牧百峰云ふ 時に腕力を出し人目を一新せしむ)

53.小春
54.讀前賢諸集有感
55.宿西徳寺
56.山陽翁挽詞三首
57.即事
58.惜春
59.秋堂師問詩賦示
60.孟夏遊菩提山雲屋師携具分山靜似太古爲韵得靜字
61.偶成
62.林亭
63.鷺
64.題誓運寺芬子閣
65.張瑞圖畫山水
66.同諸子訪圓長寺遂泛舟佐渡江
67.池大雅山水圖
68.偶成
69.題畫
70.矢走渡
71.過種田尭民宅
72.題高杏村新[尸+立]
73.孟冬謙譲師至
74.過飲關原崎文伯宅
75.春日田園襍興效月泉吟社體
76.春草
77.木筆花
78.題小景二首
79.江州途上
80.早春題杏村梅花水[僊]圖
81.正月出遊次東坡女王城韻
82.春日牧牛圖
83.牧信侯聞余東遊贐火石袋其製擬八幡公取佩輿中賦此爲謝
84.三河道中
85.冨獄歌
86.相州懷古三首
87.初食銘錘魚
88.送齋藤有終還勢州
89.登愛宕山
90.八代洲晤田淇夫賦贈
91.題疎林道人畫寒山行旅圖同岡本豐洲大窪詩佛鹽田隨齋諸君賦
92.題同寓子學墨竹
93.訪松崎慊堂羽澤間居
94.墨水竹枝四首
95.同梁公圖宮士淵 泛舟墨水次公圖奮遊韻

梁公図、宮士淵[宮原節庵]とともに舟を墨水に泛べ公図旧題の韵に次す   神田柳溪

満江流水泛軽橈   満江の流水、軽橈(けいじょう:軽舟)を泛べ
三両同人相共要  三両同人、相ひ共に要す[待つ]
万里不期来此処  万里期せず、此処に来たるを
一杯且以永今朝  一杯、且つ以て今朝を永うせん
俯波簾幕燈斉上  波に俯す簾幕に、燈は斉しく上り
近海風潮酒半消  海に近き風潮に、酒、半ばは消えたり
欲向橋辺分手去  橋辺に向ひて分手して去らんと欲すれば
不堪楊柳晩蕭蕭  堪へず、楊柳、晩蕭蕭たるに

牧百峰頭評「一気呵成風致多少見伎倆於次韵不知公図云何:一気呵成にして風致の多少たること[多いこと]、次韵に伎倆を見る、公図は何を云ひしや」

96.逾碓氷嶺遇雨
97.欲觀河中島戰場路遠不能過焉戯題其戰圖
98.岐岨雜詩十二首 鈔六
99.歸後偶成
100.春初※ 歩遂訪清水尚賢醉後走筆
101.勢州客舎作
102.浪華同篠小竹 諸君泛舟網洲分韻
103.即興
104.添川中頴見過
105.哭津坂有功
106.過飲士厚 宅
107.讀織田豐臣二記
108.食蟹
109.賣牛詞 丁酉歳饑記所見下同
110.拾橡詞
111.桃菜詞
112.送伊藤子眞
113.平重衡
114.平忠度
115.新春
116.春日間居
117.暮春同牧信侯宮士淵頼士剛 遊糺林分得韻眞
118.題東山公茗會圖
119.題山本道鬼像
120.中秋貞讃寺賞月限明字
121.早春書懷
122.消寒雜咏六首任筆遣興語無倫次

南宮詩鈔跋 (村瀬藤城)

神田柳溪

神田柳溪 掛軸

『溪毛芥南條文雄父子展』1991大垣市教育委員会刊行よ )

大橋如龍小橋蛇
蜿蜒横臥太湖波
何年架此通官道
其奈三里迂路何
矢走渡口惟一葦
快帆剪江疾如矢
人我袞袞貪利渉
日犯風波不知己
却望勢田夕照明
二橋終古平如砥

矢走渡作録似貫道老師  充

大橋は龍の如く、小橋は蛇
蜿蜒、横臥す、太湖の波
何れの年にか此に架して官道を通ぜしむ
其れ三里の迂路[迂回路]は奈何ん
矢走の渡口、ただ一葦[舟の意]
快帆、江を剪って疾きこと矢の如し
人と我と、滾滾として、利を貪りて渉(わた)し
日に風波を犯して己を知らず
却って望む、勢田、夕照の明るきを
二橋、終古[永遠に]、平なること砥(といし)の如し
矢走の渡し(近江八幡)の作、録して貫道老師に似[示]す  充

神田柳溪書簡

田辺如亭宛 神田柳溪書簡


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