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張紅蘭 (1804 文化元年 〜 1879 明治12年)
題詞(横山[小野]湖山)
莫欺三寸弓鞋小 欺くことなかれ、三寸弓鞋の小なるを
踏破江山萬里春 江山万里の春を踏破したり
長得琴書陪燕賞 長く琴書をもて燕賞に陪するを得
寧辭桂玉共酸辛 寧んぞ辞せんや、桂玉酸辛[高価な都会生活]を共にするを
班昭本意在箴誡 班昭[貞女]の本意は箴誡に在り
徳曜遺風甘隱淪 徳曜[梁伯鸞の妻]の遺風は隠淪を甘んず
夫子文章重天下 夫子の文章は天下に重し
室家何怪有斯人 室家、何んぞ怪まん斯人あることを
誰信詞章是緒餘 誰か信ぜん、詞章は是れ緒余
吟成長短盡瓊琚 吟成りて長短、尽(ことごと)く瓊琚
優柔清婉人相似 優柔清婉、人、相ひ似たり
卓越高情世莫如 卓越高情、世に如くこと莫し
不廢居常針黹事 居常、針黹(しんち:針仕事)の事を廃せず
兼攻上古聖賢書 兼ねて攻む、上古聖賢の書
咲他弄月嘲花伴 咲ふ、他の弄月嘲花の伴[女流詩人]
欲把浮華買令譽 浮華[ミーハー]を把って令誉[評判]を買はんと欲するを
湖山々巻 拝草 湖山[横]山巻
紅蘭小集 巻1 芙蓉鏡閣集(文政3年12月〜天保元年2月)
無題 景婉年甫十七時外君在駿州
蘭竹二詠
芳草蝶飛図五首 録三
睡起
散歩
秋江漁父図
客中歳晩言懐 以下三十一首係征西客中所作
庭梅
連日余寒甚書以遣悶
題釧雲泉山水画巻後
客中述懐
題自画菊花
夢得郷書
思郷二首
牡丹胡蝶図
次韻酬余東屏 姑蘇人
紅蘭翠竹二図
夏日濶r
秋夕次江芸閣韵
暮秋夜坐成詠。時寓廣江氏老龍園
庭中梅開一枝
寒夜侍外君
雪中三絶句 録二
除夕
元日
東郊矚目 時在広島
遊衣波得煙字
春尽写懷
榴花
養筍
題梅澹卿画溪山秋霽図
旅懐
春初書感二首
還家作三首
舟下藍川
梅花寒雀図
梅花煙月図
養蚕篇
嵐山看花三絶句 録一
秋近
秋夕浪華客舎寄外君
重過湖東。記嘗侍先考経此今八年
湖村春霽
姉川夜帰所見
展先妣墓。行香既畢賦一絶句
有感
旅懐
南勢道中
庚寅二月十八日。同外君。観梅於和州月瀬村。晩間風雪大作。遂宿山中道士家。至夜半。雲破月来殆不可状也。翌又探雄山桃野長曳諸村花而帰。得十五絶句 録十
春晩上野客舎書懐
紅蘭小集 巻2 芙蓉鏡閣集(天保元年3月〜11年11月)
笠置山下作二首
京寓雑感五首 録二
五月九日暴雨。鴨水寓楼所見
鴨水寓楼夏日雑題十首 録五
夜坐
七月十二日。遊柜椋湖
夜深
節後野菊
発大津抵彦祢[根]。舟中作
游赤松小野田別墅
睡起
十二月念日早起聞鶯
雪中夜帰
春夕雨二首
汲井篇
霜暁
病中夜吟
病起
楊柳枝詞九首 録二
湖亭春霽。同清来雪湖黄石諸君賦
壬辰九月。従外君。将赴江戸。留別湖東諸旧
客居 以下係江戸客中所作
三月念五日。陪藤太[藤田東湖]夫人。遊神崎別墅
三山亭双鶴詩 有引
読松亭老人梅花百詠
春興二首 録一
夏霖不止有述
九月朔日作
丙申之秋。大饑書感。適籾山生餉新穀。故第四及之
春夕絶句
無題五首 録三
偶成三首 録二
二月四日雪
渓山入夢図
東叡山看花五絶句
幽蘭
秋蝶
早春雪中戯詠
春日園中雑句四首 録二
池閣春晴書感六韵
贈女監小野氏
秋夕
朝霧
冬暁
至日臘梅始花。乃賦長句
紅蘭遺稿 上
辛丑除夕
又
壬寅新正
潮来留別茶村兄
登西村望湖
銚子港
従久保至新宮
浪太[なぶと]
従平郡至勝山
鋸山
従勝山至八幡途中
壬寅元旦
寓筆
雪
雪中臘梅
早春
明月入簾
已賦前二首。鄙意猶有慊焉。因更作七律一首。併以呈下執事
患眼。時閏重陽
咏鶴。恭祝安藤君台孺人六秩初度
偶成二首
与懐之彦之墨水賞花。酒中賦二律以示。時西帰期近。故末章及之。時甲辰仲春念八日也
送雲濤兄之越。時甲辰中秋前三日
乙巳元旦
与懐之彦之看梅八首
盆梅
正月十六日。雪中登吉祥閣
帰路。過円禅上人房
偶成
正月念九雪中作
同日茗溪看雪
春夜
二月二十一日。雨中東叡山看花
彦之生子。賦二絶以祝
二月念三日。雨晴。重看花於東叡山
清涼亭即事。贈円上人
三日
三日墨水路上
偶成
観音寺看花
外君唱詩學于江戸從游之徒甚多。乙巳夏將西歸。平生所親者惜別殊深。妾亦黯然。乃賦之以示
乙巳夏將西歸、奉呈象山先生
乙巳六月廿日發江戸。諸舊送至板橋驛。酒間賦長句以叙別
秋晴
竹窓聴風
乙巳十月念六。陪小原君。游問水会心亭。賦長句四韻以呈
乙巳仲冬賦一律以贈細香女史
病中。細香女史見贈早梅
溪橋雪月図
子方宇野兄。畳細香女史與余唱和韻見贈。依前韻以答謝
多度山瀑布
題画
花朝大雪
二 月二十七日。散歩至藍川
岐山西行庵即事
二月晦日。西行庵即事
三日。寄江戸諸君
岐阜猪口亭書所見
丙午三月。訪柿園藤氏
従黒野至御望途中作
郷氏樂山堂。觀汪滋穂米家山水横巻。墨法精妙。殆入神品。余不能釋手。遂 借以歸寓。臨摸渉數日。胸中欝結為之消散。乃題一絶
寄題岐山櫻花。在黒野作
伊藤氏園中春晩書事
三月廿二日。岐山看花
無題
留別
岐山至北県。途中得三絶句
將赴勢州賦二絶
丙午初夏。将南游。舟發大垣。宇野士方及家侄長虔。送至船附。賦以留別
平野氏習静亭夏暁
初夏雨中分韻
聞蛙分韻
雨中看山
游八壷溪分韻
旅感
桑城客舎。寄平野氏令政[令正室]
紫竹君見恵水晶花。賦謝
夏山雨霽
留別天州翁
丙午仲夏。陪拙堂先生。游臨湖亭。景婉曽従外君在江戸。与先生屡相往来。情如親戚。距今八年矣。
題画
松阪客中。長谷川六有。贈床供午睡。因賦二十八字以謝。時閏五月朔。炎気如燬
心遠山房即事
心遠山房清集。分韻得麻
聞山北氏漁樵問答秘曲。因賦長句四韻。寄之以請其伝
緒方君屡来授琴法。賦以謝之
閏五月念九拙堂先生父子。邀外君同遊海浜。本地有一種漁法。名曰立乾。脩網截湾数里。竣潮落。入而捕魚。女児輩亦可能也。与及拙堂家眷従焉。賦以紀事
丙午六月十二日。朝雨忽霽。同諸君遊願成寺
虫
看雲亭即事
七月五日。拙堂先生招飲分韻得冬
秋暁行圃
聞緒方君自京師帰。賦一絶以代簡
中秋。楽哉君見訪。琴樽相歓
竹窓閑話
寓河辺氏別墅匝月。賦此以示主人
病中緒方君見訪。賦此以謝
重陽看雲亭
秋霖不已。奉寄緒方君
留別有終子愿二君。及看雲主人。時九月二十五日
失題
中瀬所見
行入伊州過中瀬。澗泉幽咽。天然琴曲也。因有懐緒方君。賦一律以寄。
呈謝竹塢君
緒方君期而不至。賦三絶句以寄呈
九月晦日。游井甃太夫別墅。分林間温酒焼紅葉為韻。得酒字
更賦長句四韻。贈緒方君
就看雲主人借解慍琴。携至伊州。今将赴京師。因付价奉還。係以一詩
十月三日。上野至笠置。夜漏下二更
木津川舟中
十二月五日。入京
丁未春日。鴨水寓楼作
在京師。聴人弾琴。却寄看雲兄
仲春。鴨水寓楼作
東山看花
桜花始開。邀袖蘭女史同賞
嵐峡舟中。与平塚君同賦二首
暮春游東山
噲々堂即事
春暁
暮春鴨水寓楼所見
五月下旬。外君病将起。書喜
鳥海道人見過。述懐以贈
奉祝春樵先生七十
秋日次河辺氏見寄韻
偶成
鴨水寓楼作
今茲仲春。外君罹篤疾。既而聞叔氏在家亦病。彼此報道。審病勢。互有増減。至夏秋之交。外君差安。而叔氏更加困苦。薬治未効。思外君所頼一弟耳。而今如此。慨然賦此。
画竹
送池田君東游
題霊芝図
同前
偶成
丁未九月。華頂親王。賜花綾一反於外。命為鶴氅裘。裘既成。恭紀
無尽燈歌
晩冬。得懐之書及詩。賦二律以答
除夕
戊申元且
正月三日。東郊看梅
寓楼雑吟
寓楼春晩
上元前五日。訪今大路君悠山大兄
春暁
損益
石
三歳
正月廿日。同袖蘭女史游東山。有懐細香女史。賦此以寄
乙巳夏外君発江戸。房州鈴木松塘。請両月暇於二親。送至美濃。今春又来問京寓。情意之厚。感嘆有余賦此以謝
酒間重贈松塘二首
送松塘帰房州
大西氏祥雲園看牡丹三首
二月念九日陪竹洞翁笠山夫妻及外君。游鴨東花園看牡丹
四月朔。繁山君。誘諸名士。游角倉氏別園。園有水石之勝。酒酣分韻賦詩。余得青
明明
鴨川寓楼所見
偶成
紅蘭遺稿 中
同松本子龍游水楼
冬至日。懐之見訪。喜賦二首
遊順正書院。和黄幼山韻
遊瓢亭有感
十二月念五日。梅礀兄見訪。喜賦
十二月十六日。雪中作二首
咏歳寒三友。応華頂王教
二月十日。雪中即事
三月六日。重游彦根。此日与諸君。同游大洞。舟中賦此以呈
渋谷百錬。延外君及余。寓其海棠書屋。歓待甚至。不堪慚愧。賦長句四韻以謝。嚮者余疾病。百錬父孔昭。以神法救之。孔昭今客関左
三月某日。移寓於岡本君黄石芹川荘。一夕黄石拉諸子見訪。行杯賞花。分韻得元
又
留別湖上諸君
題画
中秋後一日。渋江君招飲
送松本子龍西帰
八月十六夜。陪禊川相公。賞月於[餐]霞楼
鞍川柏公費月
庚戌秋九月拙堂先生見訪
寄題大石良雄手植桜花
睡後茶興
桐陰
外君兄弟。共罹篤疾□□□弔叔
祝采真翁六十初度
四月四日平松君子愿。将帰勢州。因作一図。係以小詩
嵐山看花五首
藤井士開。要余夫妻。看花於糺森。将出門。適菊池溪琴来訪。遂相伴同游
春夜□□
辛亥春侄有来訪之約。未至。客詩以代簡
読易
初夏檉所要外君。飲三樹清輝楼。余亦従焉。座有妓小鶴。善歌
壬子春二月二十五日。天満宮九百五十回忌辰。恭賦
買琴歌
壬子之夏建卯月 壬子の夏、建卯月[2月:夏は誤りか]
商人携琴來夸説 商人琴を携へて来りて夸[誇]説す
如斯之器世所希 かくの如きの器は世に希なるところと
古漆斷紋細於髪 古漆断紋は髪よりも細し
余之求琴年久矣 余の琴を求むること年久し
何料一旦見尤物 何んぞ料らんや一旦、尤物を見んとは
古氣森然來衝人 古気森然として来りて人を衝く
目悦心恰口若訥 目悦び心恰び口、訥の若し
我聞斷紋貴梅花 我は聞く断紋は梅花を貴しとすと
蛇腹之間點奇葩 蛇腹の間に奇葩を点ず
想當五百年前物 想ふに当に五百年前の物なるべし
表裏不見毫髪瑕 表裏に毫髪の瑕を見ず
軫下彫成老龍字 軫(横木:ブリッジ)の下に「老寵」の字を彫り成し
有印曰笑傲烟霞 印ありて笑傲烟霞といふ
名實兼全無謗[瀆] 名実兼全にして謗[瀆]なく
有似君子之修姱 君子の修姱(しゅうか:清く美い)に似たるあり
龍乎龍乎変化不可測 龍や龍や変化は測るべからず
潜見躍飛時合契 潜み見(あら)はれ躍り飛ぶは時に合契す
不知此琴経歴幾世代 知らず此の琴の幾世代を経歴せしを
行蔵亦猶如龍徳 行蔵[ゆき隠れる]また猶ほ龍徳の如し
書生大都無閑資 書生大[措大]都(すべ)て閑資無し
何況寒酸貧女兒 何ぞ況んや寒酸の貧女児をや
連城之價争辦得 連城の價[超高価]争(いかで)か弁ずるを得ん
抜釵脱裙纔償之 釵を抜き裙を脱して纔かに之を償ふ
賢哲從來不貴物 賢哲、従来、物を貴ばす
獨於琴乎用意爲 独り琴においては意を用ふると為す
琴者禁也禁淫邪 「琴」は「禁」なり、淫邪を禁ず
所以不可須臾離 須臾も離るべからざる所以なり
君不見宮商和諧依六律 君見ずや、「宮」「商」の和諧は六律に依るを
蒙之管絃正家室 之を管絃に蒙らしめて家室を正す
五位相得不遠實 五位、相ひ得て実に遠からず
虚實助以中不失 虚実助けて以て中を失はず
起從王侯至士庶 王侯より起りて士庶に至る
誰人得不御琴瑟 誰れ人か琴瑟を御せざることを得んや
嗟乎宮商和諧妙入神 ああ、宮商和諧すれば妙は神に入る
不然天地之間無學術 然らずんば天地の間に学術なからん
買琴試弾一曲
起倚高棲梅雨晴 起ちて高棲に倚れば梅雨晴る
山川幽邈意嘉平 山川幽邈(ゆうばく)にして意は嘉平なり
浮雲柳絮淡無迹 浮雲柳絮は淡として迹なし
水自東流琴古聲 水は自づから東流し琴は古声あり
甘雨応祈
班ul
新闢小園
六月念三日。同片桐三省游沙川
鴨川秋夕
江州途上
游高野永源寺
孔雀
瓶花
枕上
遊梅林帰途訪富子
楼上所見
三月某日嵐山路上
三月六日諸名士会於桂水水上。泛舟。詩酒管絃之游。寔為盛事。是日大覚親王氏賜酒肴。故結及之。
嵐山帰路
嵐峡看花。次京尹浅野君韻
伊藤士龍従淡州来訪。留寓月余。臨帰賦贈
夏日所見
鴨川秋暁
早後偶成
銀閣寺
白幽子先賢旧跡
過詩仙堂。有懐杖山先生
山[山鼻]
十二月四日藤井氏誘余。游鴨川酒楼
冬暖
又
偶成
二月十四日雪中
読管公遺誡
二月十五日観梅于伏水。途中得二律
宿越智仙心水楼
登豊公故墟。書所見
三月十七日看花於嵐山
賞花於嵐峡。酒半酣。忽見飆風巻波暴起。如取一條路而走。衆皆驚避退走。而衣裳為之沾濡者過半。余亦冷湿透背。想是所謂羊角風者乎。真奇事也
甲寅十一月二十三日。上移蹕御新殿。使士民縦観。恭賦
紅蘭遺稿下
偶成
庭梅
五月
偶成
平素
悼小石嬬人
失題
栂尾看楓
従栂尾至高雄
高尾
看楓帰路口占
八阪看梅
送草場賢兄帰省
丙辰三月□□。看花於嵐峡。遂訪玩水上人房。時昏月朦朧。石壚煮茶。山簌野肴。歓待殊厚。座客各弄翰墨。夜将半。雲破月霽。共起徘徊。高誦唐賢月照花林皆
如霰之句。既而鐘声舂容。鶏唱喔咿。尽興而帰。余雖不解韻語。亦賦長句。以記此游之難再逢。但辞鄙調野。不称絶勝。多所遺漏、此為恨耳
聞松橋江城訃
家弟至。喜賦
菩提瀑布
夏日送松塘兄帰房州
別後。重寄松塘兄
搬運
梅霽
偶成
六月十五日横山湖山従江都帰省。迂路来訪。匆卒相別。賦此以贈
鳩
銷暑於三樹水榭。有憶梨影夫人
中元
失題
秋興
三千三百
十月八日与齋藤秋良。清狂上人及諸子。同看楓於栂尾高雄諸山
丙辰九月三。送拙堂先生帰勢州
老峰賢兄。游学于京師五年。一旦以父母命帰其郷。余以為使兄更加五年之功。則進徳修業。一変気質。至見其大成。惜夫半途而止。因賦二絶餞之
三月念五日。陪外君。看花於東山。遂訪月性上人寓。与山中子文。江馬正人同賦。是日微雨。
失題
古琴
月性上人西帰。賦長句四韻餞之
偶成
天道
秋暁
聞落葉有感
失題
偶成
失題
戊午十二月二十三日作
驚回陸地怒濤飜 陸地を驚回して怒涛翻る
寡婦敢當能雪冤 寡婦、敢て当に能く冤を雪ぐべけんや(よく無実の罪をそそぐことなどできるだらうか)
一點氷心期萬古 一点の氷心は万古を期す
未曾通賄要牽援 未だ曽って賄[賂]を通じて牽援を要めず
偶成
鵜鴃先鳴百草知 鵜鴃、先鳴して百草知り(離騒:鵜鴂[冬を告げる鳥]先鳴して、夫れ百草之が為に芳しからざらしめんことを恐る。)
孤芳況乃日傷萎 孤芳、況んや乃ち日に傷萎す
彼他引兌専容悦 彼[世の人]はまた「引兌:無節操で慢心」、悦を容れるを専らにするも
介疾能無有喜時 [私は]「介疾」能く無からんか、「有喜」の時(易「介疾有喜」:一陽来復)
董水
己末正月廿九日。獄中作
誰把孤鸞付綱塵 誰か孤鸞[の私]を把って網塵に付す
囚飛禁舞太艱屯 飛ぶを囚(とら)へ舞ふを禁じて太(はなは)だ艱屯(かんちゅん:困難)
栄衰寵辱固常事 栄衰と寵辱とは固より常事
誰害乾坤不測神 誰か害せん、乾坤不測の神を
野鶴鶏群且乱神 野鶴鶏群かつ乱神
皇天豈嗜網生民 皇天あに生民を網するを嗜まんや
此災無妄復何祓 此の災、無妄[意外]にして復た何ぞ祓はん
蕩蕩平平一体仁 蕩蕩平平[公正不偏]、一体の仁
二月十六日。蒙恩出獄
殷憂艱患欲盈旬 殷憂[深憂]艱患は旬に盈たんと欲す
百錬心丹始見神 心丹を百錬して、始めて神[精神]見(あらは)る
黙契吉占需上六 吉占を黙契す、「需(まつ)の上六」[易:水天需の上六。穴に入る。速(まね)かざるの客三人来るあり。これを敬すれば終には吉。]
來哉不速客三人 来るかな、速(まね)かざるの客三人 ※出迎へに来てくれた鳩居堂主人ほか、気安い弟子たちのことでせうか。それとも小笠原長門守ほか、
獄中入れ替り立ち替り出会った取調官のことでせうか。
誰道儒冠多誤身 誰か道(い)ふ「儒冠、多くは身を誤る」と [杜甫:「奉贈韋左丞丈二十二韻」]
不知暖律一声新 知らず、暖律[笛]の一声、新たなるを
纔爲陰痞便氷解 纔かに陰痞[つかえ]を為せるも便ち氷解す
聖澤依然萬物春 聖沢は依然たり、万物の春
写所思。贈同社
忽驚悽愴一庭霜 忽ち驚く、悽愴たる一庭の霜
雙涙潸然濕不妨 双涙潸然(さんぜん)として湿るを妨げず
休道老痴難独立 道ふを休めよ、老痴、独立するは難しと
陰柔本自借陽剛 [女の]陰柔は本(もと)自り[男の]陽剛を借る
蘭衰菊痩復誰親 蘭衰へ菊痩せて復た誰か親しまん
交道多君管鮑倫 交道[交際]多し、[わが]君が管鮑の倫[親友たち]
履得萬奇千険了 万奇を履(ふ)み得て千険、了す
容與梁氏未亡人 容与(ようよ:ゆったり)たり、梁氏の未亡人
答伊藤士龍見寄
鳥啼花落太無因 鳥啼き花落つるは太(はなは)だ因なし
寧計天涯慰問頻 寧ぞ計らん、天涯、慰問の頻りなるを
四海游縦歸浩渺 四海の游縦、浩渺に帰し
淡州盟約竟逡巡 淡州の盟約、竟に逡巡す
文章自是足千古 文章自ら是れ千古に足る
風骨可能爲幻塵 風骨、能く幻塵と為すべけんや [できるだらうか]
君有心喪悲感在 君は心喪悲感の在る有りて
兼憐孤直歳寒身 兼ねて憐む、孤直歳寒の身
庚申夏四月。帰住旧栖。訂同社
文星光没再來不 文星[星巌の謂]光没して[同様の人物]再び来るやいなや
今日吟壇喜唱酬 今日の吟壇、喜んで唱酬す
豈啻杜康偏解悶 豈に啻に杜康[酒の謂]の偏へに悶を解するのみならんや
也知萱艸長忘憂 また知る、萱艸(わすれぐさ)の長へに憂ひを忘れしむこと
百年世態知機晩 百年の世態、機を知ること晩く
萬事傷心入鬢秋 万事傷心、鬢に入るの秋
話到愛松遺桂地 話して愛松遺桂の地に到れば
相看涙落不能収 相看て涙落、収むること能はず
失題
琴瑟和諧一夢遷 琴瑟和諧するも一夢にして遷る
大祥期近早霜天 大祥期[三回忌]近き早霜の天
三年濺盡秋風涙 三年濺ぎ尽くす秋風の涙
忍聽七條流水絃 忍び聴く七條、流水の絃[曲名]
遮莫秋蟲塵網牽 さもあらばあれ、秋虫の塵網を牽くに
西風不續舊琴絃 西風、続かず旧琴絃
試開宝匣操清曲 試みに宝匣を開きて清曲を操る
怨調離声易黯然 怨調離声、黯然たり易し
夢遊月官
栽梅
桃山懐古
重陽。有游詩仙堂約。遇雨不果
雲如山人第四編刻成。喜題其後
數首煥章梨棗鐫 数首の煥章、梨棗[板木]に鐫(ゑ)る
題言我豈汚新篇 題言、我れ豈に新篇を汚さんや
惜乎逝矣家夫子 惜しいかな逝けり、家が夫子
更使何人得粲然 更に何人をして粲然たるを得しめん
何怪出群詩酒仙 何ぞ怪しまん、群を出づる詩酒仙[たるあなたよ]
吟壇辛苦廿餘年 吟壇の辛苦、二十余年
我家文派遍湖海 我家の文派は湖海に遍(あまね)し
幾個人才衣鉢傳 幾個の人才か、衣鉢を伝ふ
辛酉十月九日。与山中子文。遠山雲如同看楓若王子。以地名為韻。得子字
驚殺連暁霜 驚殺す、連暁の霜
錦楓剪紅綺 錦楓、紅綺を剪る
短籬誰氏家 短籬、誰が氏の家
斕斑見毬子 斕斑、毬子を見る
同心僅兩三 同心、僅かに両三
提攜乃至此 提携して、乃ち此に至る
衰老一孤身 衰老、一孤の身
寧期兼四美 寧ぞ期さん、四美を兼ねるを
小春寒頗微 小春、寒は頗る微にして
就席面池水 席に就きて池水に面す
論交思吉人 交を論ずるに、吉人を思ひ
玩世窮易理 世を玩ぶに、易理を窮む
游禽時咬咬 游禽、時に咬咬
士女聚如市 士女、聚ること市の如く
酒徒或酔歌 酒徒、或ひは歌に酔ふ
足見豊年喜 足る、豊年の喜びを見るに
千山帶タ陽 千山、タ陽を帯び
隠隠鐘聲起 隠隠、鐘声起る
初月來相照 初月、来りて相照す
淡忘情何已 淡として情を忘る、何ぞ已(や)まん
送□□
梁川星巌記念館(大垣市曽根町1-772)