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後藤松陰自筆 世話千字文 折帖 (2007年3月入手)


世話千字文

世話千字文

ほうれきかけい みよたいへい いずくもせいひつ
鳳暦賀慶、御代泰平、何謐国静、
            (刊本では何国静謐)

じたこうじん してんこうえき かいせんうんそう
自他幸甚、市店交易、廻船運送、

にもつべいこく だちんいんじゅ かんじょうさんよう
荷物米穀、駄賃員数、勘定算用、

しょうばいはんじょう ふうきえいよう きょうかいかんらく
商売繁昌、富貴栄耀、境界歓楽、

ますますりそくをふやし いよいよきんぎんをたくはふ ふしんじょうじゅ
益殖利息、弥貯金銀、普請成就、

けっこうまんぞく しんたくわたまし こうごあんど
結構満足、新宅徙移、向後安堵、
            (刊本では先以安堵)

ふぼいんきょ ざいほうをゆずりあたへ かとくそうぞく
父母隠居、譲与財宝、家督相続、

ゆうふくじんぴん にゅうわかっけい りちぎれんちょく
有福人品、柔和活計、律義廉直、
            (刊本では活計有福、人品柔和)

ゆいしょけいず いきょくききつくろひ こんいんしょれい
由緒系図、委曲聞繕、婚姻諸禮、

こうれいかくしき ほうゆうばいかい しじゅうきもいり
恒例格式、朋友媒介、始終肝煎、

げんかんしょいん そうじきれい ていぜんさくらもも
玄関書院、掃除奇麗、庭前桜桃、

かいふさいちゅう ひんかくらいりん ていしゅちそう
開敷最中、賓客来臨、亭主馳走、

たまさかきょうおう かこうじゅんたく りょうりあんばい
邂逅饗應、嘉肴潤澤、料理塩梅、

なまうをなますやきもの きゅうじはいぜん こしょうそうげき
鮮魚膾炙、給使配膳、扈従忽劇、

ちゅうやふるまい かいせきゆうちょう しょうぎすごろく 昼夜振舞、会席優長、象戯双六、

いごけまり しまだいほうらい つるかめまつたけ
囲碁蹴鞠、島台蓬莱、鶴亀松竹、

いまようのうたをうたひ むかしばなしをなす しゅえんゆうきょう
謳時勢歌、作疇昔咄、酒宴遊興、

しんしゃくめいてい しだいすいきょう けんぺいせんじょう
斟酌酩酊、次第酔狂、権柄僭上、

みだりにばかをかたらひ おほくはちょうろうをまねく ことさらろうぜき
謾語馬鹿、多招嘲弄、殊更狼藉、

りょがいをかへりみず よつじにはいかいし かりそめにこうろん
不顧慮外、徘徊阡陌、假初口論、

けんかそうどう しゅうしょうてんとう だいたんがまん
喧嘩騒動、周章顚倒、大膽我慢、

ほうはいいっとう でんぷやひ あつぱれくっきょう
傍輩一黨、田夫野卑、天晴屈強

そつじにちょうちゃく いこんつうっぷん たがひにしゆうをあらそひ
卒爾打擲、遺恨鬱憤、互争雌雄、

すでににんじょうにおよぶ そしょうつうたつ ぎんみせんさく
已及刃傷、訴訟通達、吟味穿鑿、
            (刊本では「鑿」=[シンニョウ+業])

いはいてんでん せんぎひょうばん じつぷをろけんし
違背展轉、僉議評判、露顕実否、

えんていをさたす うろんとうじょう むじゅんべんぜつ
沙汰渕底、胡乱闘諍、矛盾辨舌、

そのとがのがれがたし けをふいてきずをもとむ こさいもうしのべ
其咎難遁、吹毛求疵、巨細申暢、

きょようねがふところ みつだんにまいないし かんにんすうき
許容所希、密談賄賂、堪忍樞機、

えこひいき けいばつしゃめん ざんそうこもう
依怙贔屓、刑罰赦免、讒奏虚妄

たやすくちじょくをすすぐ しんるいけんぞく じひあいれん
輙雪耻辱、親類眷属、慈悲愛憐

いくたびせっかん かんげんみみにさからふ そののちとうかん
幾度折檻、諫言逆耳、厥后等閑

けいやくへんがい ながくきちせられ またこれひぼう
契約變改、永被棄置、又是誹謗、

ばくえきしょうぶ しっついこきゃく れいらくすいび
博奕勝負、失墜沽却、零落衰微、

どくしんひっそく ひんせんていたらく しょうしかくのごとし
獨身逼塞、貧賤爲軆、笑止如斯、

ききんこんきゅう かんりゃくかくご ぐちもうまい
飢饉困窮、簡略覚悟、愚痴蒙昧、

どんよくいよいよふかし ほういつらんだ げいのうはいぼう
貪欲愈深、放逸懶惰、藝能廃忘、

むなしくこういんをすごし たんてきこうかい ややひさしくけたい
空過光陰、端的後悔、良久懈怠、

つとめてけいこにはげみ ししょうきょうくん きんがくこうしゃく
勉勵稽古、師匠教訓、勤學講釋、

しなんていねい いんかでんじゅす しっぴつたんれん
指南叮嚀、印可傳授、執筆鍛練、

しつぼくれいり とうりょうさいち これによってしかんす
質朴伶俐、棟梁才智、因茲仕宦、
            (刊本では因茲仕官)

かたじけなくほうろくをたまふ しゅっとうぜんせい かりばけいご
恭賜俸禄、出頭全盛、猟場警固、

ぐぶのゆうし なりふりおうよう きりょうかんかつ
供奉勇士、形態汪洋、器量寛濶、

おのおのしょうぞくをかひつくろふ もようきゃしゃ つつしんでかやくをうけたまはり
各刷装束、模様花奢、謹承課役、

おびただしくとりけものをえたり ことにほうびにあづかり ごふくはいりょう
夥獲鳥獣、特預褒美、呉服拝領、

さいさんちょうだい みょうがしごく ひばんきゅうじつ
再三頂戴、冥加至極、非番休日

そびょうさんけい るすとぜん ぬぼくすいみん
祖廟参詣、留守徒然、奴僕睡眠、

とうぞくかきをこえ ぬすみものをかかへちくでん おひつきからめとり
盗賊踰垣、抱贓逐電、追付搦捕、

かきゅうごうもん おうどうしょうこ ざんきはくじょう
火急拷問、横道證據、慙愧白状、

とかくろうしゃ ひっきょうるざい ぶぐいしょう
兎角牢舎、畢竟流罪、武具衣裳、

しっかいひぞう もんこかきかべ かならずようがいいたせ
悉皆秘蔵、門戸牆壁、必致要害、

このたびそんめい とひじゅんけん さっそくほつが
這般尊命、都鄙巡見、早速発駕、

かどでりべつ いとまごひにははなむけをおくり いささかすんしをひょうす
首途離別、暇乞贈餞、聊表寸志

なじみじっこん なほざんねんそんす あまつさへこうおんをえ
馴染入魂、尚残念存、剰得厚恩、

ふちぶいく ひとへになごりををしむ しかしながらめんえつをきす
扶持撫育、偏惜餘波、併期面謁、

えきろろうはん こきょうおもひやる かいりくほどとほし
驛路勞煩、故郷想像、海陸程遠、

けんかくうんでい ただいまべんぎ ほうさつとうちゃく
懸隔雲泥、只今便宜、芳札到着、

ぶんしょうひえつ あたかもたいがんににたり ひきゃくさいそく
文章披閲、恰似對顔、飛脚催促、

すなわちへんじをつかはす りんうとうりゅう こうずいめいわく
即遺返事、霖雨逗留、洪水迷惑、

きんぺんきゅうせき あらましすいさつ せっしゃあない
近辺舊跡、荒増推察、拙者案内、

すべからくどうはんせしむ みょうたんのこくげん ふつぎょうゆういん
須令同伴、明旦刻限、拂暁誘引、

しょうようれきらん せんをしいてしばらくいこふ ずいいのうりょう
逍遥暦覧、鋪氈暫憩、随意納涼、

やうやくしょをしのぎ ちょうぼうふぜい けいしょくめをおどろかす
漸凌酷暑、眺望風情、景色驚目、

れいちせいじょう せっしょうきんせい しゃだんがくをかけ
霊地清浄、殺生禁制、社壇掲額、

とうろうつらなるみぎわに ぶつでんしょうごん りょうらきんしゅう
燈籠連砌、佛殿荘厳、綾羅錦繍、

きとうごま あくまこうふく しがんのししゅ
祈祷護摩、悪魔降伏、私願旨趣、

うやうやしくたんせいをぬきんず きっきょうゆうよ くじをとってけつだん
恭抽丹誠、吉凶猶豫、取鬮決断、

しんみょう しんこうすうけい
神妙、信仰崇敬、
                       (刊本では「祭祀神妙、信仰崇敬、」)

どうとうがらん そこばくはいえ とうじのだんな
堂塔伽藍、若干敗壊、當寺檀那、

がいふんかんじん えんぎきろく ほぼらんしょうをかんがへ
涯分勧進、縁起記録、粗考濫觴、

あくまでさんせんをしひて あいさついんぎん はそんしゅうふく
飽誣散銭、挨拶殷勤、破損修覆、

じょりきこんりゅう このかんねんき さいをもうけてこんせつ
助力建立、此間年忌、設斎懇切、

そうりょれつざ かんきんどくじゅ ちしきせっぽう
僧侶列座、看経讀誦、知識説法、

もっともよのつねにことなり ろうしょうなんにょ ちょうじゅぐんしゅ
尤異尋常、老少男女、聴衆群集、

ふせこうでん ほうしゃぜんこん げこうやまみち
布施香奠、報謝善根、下向山径、

けんそたかひく ほこうしんく くたびれちたい
險岨高低、歩行辛苦、草臥遅滞、

みやげかし りょうしゅこれをおくる じどうともによって
土産菓子、兩種饋之、児童共寄、

しょうがんきんやく あじょうをちょうあい はたかつけいはく
賞翫欣躍、阿嬢寵愛、将且軽薄、
            (刊本では将且轉●)

にはかにりょしゅくにおいて たいくつびょうき みゃくをうかがひりょうじ
俄於旅宿、退屈病氣、診脉療治、

せいやくちょうごう めいよいじゅつ ほようほんぷく
製薬調合、名誉醫術、保養本復、

おうかんつつがなく きかんちんちょう よくちょうとじょう
往還無恙、帰館珎重、翌朝登城、

たまたまきげんをうかがひ しこうをとぐるごとに こうむこんざつ
偶窺機嫌、毎遂伺候、公務混雑、

ちゅうせつくんこう よこぞってしょうたん くんしんじゅんじゅく
忠節勲功、挙世稱歎、君臣純熟、

はばかりながらきょうえつ じんせいたみをめぐみ のうぎょうふじょう 
乍憚恐悦、仁政恵民、農業豊饒、

ひゃくしょうともにしゅくす せんしゅうばんざい
百姓倶祝、千龝萬歳、
           (刊本では千秋萬歳)

安政丙辰三年 桂花月(八月)廿五日書 松陰主人 機


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