(2004.01.05up / 2019.12.15update)
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すぎもと としひこ【杉本駿彦】『記號と秩序』1932


記號と秩序

詩集 『記號と秩序』

杉本駿彦 第二詩集 全文PDF

昭和7年9月1日 旗魚社刊行

111p 18.8×12.9cm 並製 ¥1.00

装釘:亀山巌 100部限定


『記號と秩序』目次

 第一部

帰らぬ小鳥等
液体
僕の書斎
落日
春の発生
冬の意匠
時刻
方向
書簡
僕の肋骨に
遊戯
疲労

 第二部

曇り日の西須磨
明石から帰る時
旅行通信
Incline
ゴルフ場
この径
屋上庭園
雷雨
風の罷む刻には
裏町の風
英国船入港
若干の無駄
手巾のかげに
黒い速力

 第三部

友情
化粧室
意匠された人
夜の一部
緑の冠
河岸
錯覚
病気
陶土層
カオリンの断層
五月
午後
白と黒
夕暮

 覚書

 僕は千九百三十年以後、一つの實驗をしてゐた。如何にすれば、數多くの記號の中から秩序が得られるか、集合された記號「語彙」と社會生活の因子「経驗」とから、どれだけを選び、如何なる方法に依つて構成されるかを問題にした。
 これらの背景となるのは、新精神の存在に他ならない。この點でも、『旗魚』は僕にとつて有益な實驗室であり、絶えず失敗を反覆しつつ僕は道程を追求した。
 詩集は、最初『液體』こする考であつた。
 流動し止まぬ心情と漠然とした不安を作つた自己(註一)を名附けたのであるが、これを改めて、『記號と秩序』としたのは時日の經過による、思考の變化とするのである。
 今から思ふと畏敬する諸兄(註二)に『液體』を語り過ぎたことを恥ぢてゐる。

 装幀に關しては、村野四郎氏から懇切な参考資料を受けた。それを基としてプランを創造した。
 佐藤一英氏との間に往復した文書は題名に就いてであつたが、再三に止まらなかつた。終に僕は、僕と前記二氏の意見とを、その儘出して、友人龜山巖氏に圖つた。
 挿繪に就いても、ジヤン・ユウゴオの作品を用ゐるつもりでゐたが、今までに見たのも十枚餘りに過ぎなかつたので、之を斷念し、龜山氏の案出せるCompositionを用ゐることにした。これに依つて僕は佐藤氏の指摘された缺點の補足と村野氏の慫慂された點の助長も出來得ることと思つてゐるが、この部分の完成は僕の功ではなくて龜山氏の苦心の當然現れたものであらう。

 詩集中で、發表に際して詞書の附してあつたものも二三あるが、都合上これを略し、改めて僕の青春期を導いて下さつた、尚今後も指針になつて下さるであらう鈴木教授に、僕は『記號と秩序』を捧げる次第である。

(註一)鈴木教授は「春の發生」の中から僕の言葉を拾ひあげて、僕の内面の批評を下さつた。
(註二)神戸海港詩人倶業部の福原(※清)・龜山(※勝)・竹中(※郁)・山村(※順)氏、名古屋の高木斐瑳雄氏。

奥付


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