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いけだ ひろし【池田日呂志】『夜への歌』1938
詩集『夜への歌』
池田日呂志 詩集
昭和13年9月10日 「河」發行處(品川区)発行
33葉 23×34cm(菊倍版)帙入り \2.00
著者自装 限定50部
跋 田中克己、折戸彫夫、冬木胖
国会図書館 個人向けデジ タル化資料送信サービス跋 手紙をもつて 田中克己
ほんとに突然、大阪を出発して了つて貴方には大変失礼しました。そこへ今度は、あなたの詩集の跋文を書くやうにといつて下さいましたが、
どうも僕には序も跋も苦手なんですから、困つて困つてどうしようかしらと、思つてゐる中に十日近くも経つて了ひ、又失礼を重ねることになりま
した。
今度の貴方の詩集は、日本中で一番美しい詩集になることでせう。詩の価値判断とかいふことはすべて超越して、亡くなられた貴方の奥様のため
に作られるといふお気持が、如何にも貴方に相応はしく、貴方の詩にも相応はしいとおもひます。
僕の好きなノヴァーリスは、ゾフィーを失つて夜の讃歌を作りました。おそらく他の人々も、貴方の今度の詩集を手にするとき、きつとそれを連
想することで
せう。詩集になつたら、僕もくらべあはせて悲しくよませて頂きませう。しかしノヴァーリスのやうな、夜の絶対讃美──同時に死の──は、
貴方のものとは異つてゐるやうにおもはれます。ノヴァーリスはそのくせ直ぐに他の女と結婚して、そしてすぐ死にました。すべてがひどく激情的
です。それが西洋人なのでせうね。だが、貴方の詩には、諦めと──諦めきれぬ叫びとが交互してゐます。それは西洋人にはみられないものです。
このことは又この次にでもお話申上げたくおもつて ゐます。
大変まとまりのないものになりましたが、失礼はお宥し下さい。また沢山の詩をお作りになつて、どんどんお見せ下さ心ますやうに、そして一日
も早くひどい心の打撃から回復されますやうに遥かにお祈り申します。
昭和一三、八、二四
東京杉並ニテ
田中克己
詩集の画像をれたすきゅーり様よ
りお送 り頂きました。ありがたうございました。(2017.03.14)
昭和13年12月 「日本詩壇」12月号巻末広告