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村瀬藤城 筆跡


村瀬藤城 掛軸 (2009年06月23日撮影)

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関市千疋 中村家蔵

藤城達金華。藤城[山]より金華に達す。
藍水三百曲。藍水[長良川]三百曲、
沿川好棲多。川に沿うて好棲[景色のよい住家]多けれども、
未有勝君屋。未だ君が屋に勝るもの有らず。
与君雖不知。君と知らずと雖も、
門外舟路熟。門外の舟路は熟[知]せり。[舟行久已熟。舟行久しく已に熟[知]せり。:「藤翁詩巻」存録稿]
詎図奇縁在。なんぞ図らん、奇縁在りて、
忽来頻信宿。忽ち来り頻りに信宿[連泊]するとは。

一事係釈紛。一事、釈紛[争議の解決]に係はり、
装訴人未服。褧(けい:藤城の自称)の訴人、未だ服せず。
二十七村長。二十七村長、
個個談弁黷。個個、談弁して黷(けがす:汚)す。
対此却諄諄。此れに対して却って諄諄[ねんごろに]、
遅其悟忠告。其の忠告を悟るを遅[待]つ。

此事時一倦。此の事、時に一たび倦めば、
門径[逕]去遊目。門径に去って目を遊ばしむ。
矗矗竹千竿。矗矗(ちくちく:まっすぐ)たる竹千竿、
迸出襍喬木。迸出(ほうしゅつ)して喬木に雑はる。
丹崖与屋連。丹崖、屋と連り、
老藤垂[繞]林麓。老藤、林麓に垂る。[繞る。:「藤翁詩巻」存録稿]
森鬱何古祠。森鬱[ひっそり]、何の古祠ぞ。
神嶺棲飛鵠。神嶺、飛鵠[大きな鳥]棲むは、
此其平生看。此れ其の平生に看る。
遡所停矚。遡[さかのぼり]して停矚[とどまり矚目]する所
川頭雨漲高。川頭、雨漲りて高く、
暎門鴨頭緑。門を暎[映]じて鴨頭緑なり。

前村未絶津。前村、未だ津[渡船]を絶たず。
賖酒走老僕。酒を賖(おぎのる:つけで買ふ)らんとして老僕を走らす。
日入大月昇。日入り、大月昇り、
清輝射菌褥。清輝、菌褥(いんじょく:しとね)を射る。
及彼天水違。彼の天水[用水]と違ふに及びて、
忍向盃樽楽。忍んで盃樽に向って楽しむ。
優待均吏尊。優待、吏尊[高官]に均し。
顔厚恬秉燭。顔厚[あつかましく]、恬(てん:平然)として燭を秉(と)り、
一酔詩乃成。一酔して詩乃ち成さん。
饒人咲蛇足。饒(ゆる)せ、人、蛇足と咲(わら)はんことを。

 千匹村中村儀兵[君]者、家回林臨川北連翠微。
 余毎舟行下藍[蘇]川、望而知為好棲遅也。[望而知為好棲遅也。余毎舟行下藍川、必過其門外徒欽羨耳:「藤翁詩巻」存録稿]
 近似 官命、有釈紛事、宿于此再矣。賦比紀実[云]。
 所謂 官命以、山縣通渠廿七村与広見三村長、争其渠口地、匝年不決也。
 [所謂 官命以、山縣通渠廿七村与広見三村長、争其渠口之地。官使褧輩諭之止訟焉也。天保癸卯孟夏。:「藤翁詩巻」存録稿]
 時天保癸卯孟夏 源褧併識

 千疋村中村儀兵君は、家は林を回らせ川に臨み、北は翠微[山緑]と連る。
 余、舟行して藍川を下る毎に、望んで好棲遅[良い住家]たるを知るなり。
 [望んで好棲遅[良い住家]たるを知るなり。余、舟行して藍川を下る毎に、必ず其の門外を過ぎり徒(いたず)らに欽羨するのみ:「藤翁詩巻」存録稿]
 近く官命を似[示]さる。釈紛の事有りて、此に宿すこと再びす。此を賦し、紀実す[して云ふ]。
 所謂(いはゆる)官命とは、山県(やまがた)通渠の廿七村長と広見三村長と其の渠口地を争ひて匝年(そうねん:3年程)決せざるを以てなり。
 [所謂官命とは、山県通渠の廿七村長と広見三村長と其の渠口之地を争ふを以て、官、褧輩をして、これを諭し、訟へを止ましむなり。:「藤翁詩巻」存録稿]
 時に天保癸卯孟夏(天保14年旧暦4月) 源(みなもとの)褧 併せ識す。


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